バービー「デブ、ブス、処女という女芸人の役割に違和感」清田隆之らと語る笑いとジェンダー
バービー:「この人は言葉は悪いけど、人として愛情がある人だな」ということって、感覚でわかりません? あまり言葉に先に敏感に反応しちゃうクセがつくと、裏に含む意味を感じる能力が乏しくなっちゃうのかなとも思う。だから、言葉の裏に悪意や攻撃性がないことがわかる人に限っては、ちょっとくらい毒が入った発言があったとしても、全部が全部ダメって人格まで否定することはないんじゃないかと思っています。
おぐら:言葉だけじゃなく、その人の背景や雰囲気など、いろんなものを感じたうえで、「おもしろいな」と思えるならOKというのは確かにそうだと思います。でも、読者や視聴者は、現場で感じた生の雰囲気を同じようには共有できないじゃないですか。「バービーさんにセクハラしてるジジイじゃん」としか見えないときに、「セクハラされているのに何で一緒になって笑ってるの」と傷ついちゃう人もいるかもしれない。
清田:個人的な話になってしまいますが、僕の父は下町で電気屋を自営しているんですけど。20代のころに、自分の家族と、当時の恋人と初めて食事をしたときに、父が僕の恋人にいきなり「子どもみたいな体型してるね」って言ったんですよ。それにめちゃくちゃびっくりして。悪意はないんだろうけど、息子の彼女にセクハラとも受け取られない失礼なことをポロッと言ったりする……うちのお父さん結構やばいなって。
バービー:そういういじりみたいなのもありますよね。
清田:「ええええ!なんでそんなこと言うの?」と、僕は固まっちゃって。
バービー:単純に失礼というのもあるし、「息子の彼女を女として見ている」という点でも、それは確かにゾッとするかもしれないですね。
清田:カラッと言っていたし、彼女のほうも、実際にどう感じたかは聞けずじまいでわからなかったけど、「よく童顔って言われるんですよー」みたいに返していて。一応は何事もなく終わったんだけど、自分としてはどういう態度でいればよかったのかわからなくて、「彼女に嫌われたらどうしよう……」って絶望的な気持ちになったことを覚えています。
バービー:男同士だからこそ、発言に潜む暴力性を感じてしまって、ドキッとしたのかもしれないですね。
清田:悪意がないからといって看過するのが難しい発言もありますよね。
バービー:テレビだとスポンサーがいて、演者や制作が気にするのは、基本的にスポンサーと視聴率ですよね。大衆向けのエンタメだからこそ、使っちゃいけない言葉や表現など、規制の基準はある程度画一的じゃないといけないと思うんです。これがたとえば、オンラインで視聴者がおカネを払って観にきている番組なら、基準は自由に決めていいと思う。でも、視聴者から直接お金をもらっているわけじゃないからこそ、テレビは一線を引かなきゃいけない。
おぐら:観ている人がバービーさんの対応に違和感を覚えてしまうかもしれないことへの葛藤みたいなものはやはりありますか?
バービー:あります。漁師町のおじさんの発言も、私自身ハラスメントだと思っていなくても、観ている人はそう受け取るかもしれない。
おぐら:女性の芸人さんにとって、自ら容姿をネタにするのは一つの武器だったけど、その武器はもう使えなくなりつつあるという現象が起きていますよね。武田砂鉄さんのラジオ『ACTION』(TBSラジオ)にゲスト出演されたときに、バービーさんが「コンプレックスが武器にすらならなくなるぐらいがベスト」とおっしゃっていましたが、今はまだ、女性の芸人にとってコンプレックスは武器になっていると思います?
バービー:世間一般の女性を見ていると、「自虐よりも自己肯定」という流れを感じるし、変わってきている気はしますけど、女芸人界隈ではまだ「コンプレックス=武器」かもしれないですね。実際問題、その武器を持たないと戦えない人が多いんだと思います。今のお笑いの中でおもしろいとされている基準自体が男性的なので。
でも、振ってパスして落とすという段積みの笑いは男性的だけど、ニュアンスや空気感で笑わせるのは女性的だったりする。後者はまだ世間の王道の笑いではないけれど、そういう笑いが好きな人たちが増えてくれば女芸人もコンプレックスという武器を使わずに活躍していけるようになるんじゃないかなと思います。