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“見た目”で苦しんだ自分が救われたくて――アザがある少女の物語 <鈴木望×水野敬也対談>

 太田母斑という、顔にアザのある少女と、人の顔が見分けられない相貌失認という症状を持つ教師の物語『青に、ふれる。』の作者である鈴木望さんと、『夢をかなえるゾウ』シリーズや、見た目に症状を持つ当事者への取材をまとめた『顔ニモマケズ』などの著書で知られる水野敬也さんの対談、第2回です。
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鈴木望さん(右)と水野敬也さん(左)

何でもアザのせいにする思考回路はダメだと思った

鈴木:『顔ニモマケズ』でも書かれていましたが、見た目に症状があるのって表面的な問題というか。症状はきっかけで、「傷つくのは心だ」って思うんです。会った人に好奇の目を向けられたり、言葉を投げかけられたりといった、見た目の症状をきっかけに起こった出来事に対して傷ついたりするじゃないですか。  でもそれを誰にも話せなかったり、話しても共感や理解を示してくれなかったりして更に傷ついて、自己肯定感が低くなっていくんですよ。ただ、こういうことって誰にでも起こりうるものですよね。 青に、ふれる水野:自己肯定感は人の幸せを左右する重要な問題ですよね。一方で、僕は「自己肯定感が低い」ことにも肯定できる面があるような気がしています。たとえば肯定感が低いからこそ周りに優しくなれるとか……僕自身、自己肯定感の低い人間で、だからこそ『顔ニモマケズ』に登場してくれた人たちのへ取材を通して自分を救う言葉が見つかるんじゃないかと思ったんです。 ――私は短大生のころ、サークルの仲間から「バカだ、バカだ」と言われていました。その時は笑ってごまかしていましたが、実はすごく傷ついていたことにあとから気付いたんです。自分は気にしていないと思って笑っていても、実はどんなふうに心を蝕んでるかは、なかなかわからない。そこにどうやって気付けたんですか? 鈴木:『青に、ふれる。』を描き始めて、担当編集の方と打ち合わせしていくうちにだんだん……という感じです。自分がずっと大事にしていたものを全部否定していく作業や、自己肯定感を下げるような、自分のダメなところにフォーカスしていく作業だったので、私一人では難しかったと思います。  私、何かあったときにアザのせいにすることが多かったんです。例えば昔ナンパされてお断りしたら「そんな顔で出歩いてんじゃねーよ、ブス」って言われたときとか。
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「症状はきっかけで『傷つくのは心だ』って思うんです」(鈴木さん)

水野:すごい捨て台詞ですね。 ――ナンパを断ると、だいたいの人は実際の見た目がどうかとは関係なく「ブス」って言って去って行くんですよ。 鈴木:アザに関する話題でその話をしたら、知人に「それってアザじゃなくて顔の造形を指したんじゃないですか?」と言われて、ハッとしました。すぐアザに結び付けて考えてしまうのは、そのほうが楽だからです。造形をどうにかしようと思ったらメイクとか整形とか、努力しなきゃいけない。もしかしたら私の断り方が上から目線で、ナンパしてきた人は気分を害したのかもしれない。「ブス」は、私の努力不足、思いやり不足を指していたのかもしれない。なのに「アザのせいだろう」ってすぐ置き換えてしまう自分の思考回路はダメなんじゃないかなって考えるようになったんです。

整形する人は何のために美しくなりたいのか?

水野:僕は恋愛の本を過去に書いているんですけど、相手を選ぶときに、見た目で選ぶ人もいるだろうし、外見にとらわれない人もいる。モテる人の基準も時代によって変わりますよね。ただそのときどきで、「『この人がいい』って思い込める何か」を必要としていて、だからこそ苦しみが生まれてるんだなって思いますね。だから「外見じゃなくて心が大事だ」ということが完全に行き渡った世界もまた苦しいんだと思います。僕は作品で「心を頑張って成長させよう」というメッセージを送っていますが、目に見えない「心」を鍛えるという作業は、すごくしんどいですよね。 ――外見を変えるほうが楽ですよね、私は一重が気に入らなくてアイプチで二重にしたし、シミやホクロはほぼほぼ取ってしまいました。 水野:美容は進化し続けていますが、現代では一般的に美しいとされている容姿だけで人の価値を判断する「ルッキズム」は差別だという考えもあります。鈴木さんはどう思われていますか?
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「『自己肯定感が低い』ことにも肯定できる面がある」(水野)

鈴木:「ルッキズム」って何なんだろう?と思っています(笑)。正直、まだ私自身の考えがまとまっていないんですけど……一般的な美しさを求めるのって、そうであれば得をするからですよね。確かに、シミを取ったり二重にしたり、自分が理想とする美しい外見になったら自信がもてて、周りにも好かれて、人生いろいろ有利かもしれない。  ただ、私は美しさを求めるのって、愛情を求める心と同じところから出ている気がするんです。だから「何のために美しくなりたいのか?」「誰に愛されたいのか?」「見た目を変えることで好かれるの?」「どういう愛がほしいの?」と、まずは自問自答するのが大切なのかな、と。  例えば「自分はモデルや女優になりたい、多くの人に好かれたい」ということが目標なら、見た目をどんどん良くしていくのは手段ではありますよね。
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見た目に関する意識はこれからどんどん変わっていく
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