――数の問題でもありそうです。私は高校生になってメイクに興味を持つようになったとき、雑誌には一重用のメイクがどこにも載っていなかった。それですごく一重が嫌になったんですよ。「みんなと同じになれない。みんなは二重で普通に雑誌を見て綺麗になれるのに!」って。
当時父がファッション誌の編集者だったので、「一重用のメイクをやってほしい」と言ったら「需要がない」って言われてしまった。マイノリティの烙印を押されてる気がして嫌だったのを思い出しました。

©鈴木望/双葉社
鈴木:私もファッション雑誌の方にお話を聞きたいなとずっと思っています。私自身も中高時代にアザを隠すメイクをしたかったんだけど、どこにも載っていなくて「じゃあメイクしなくていいや、メイクしないし服も適当でいいや」ってなっちゃって。
でも、太田母斑だけではなくて口唇口蓋裂(唇や口蓋、歯茎などを左右に分裂するような亀裂が生じた状態で生まれる症状)、脱毛症、アルビノ(メラニン色素が欠乏していて、皮膚、髪、目などが白い症状)の人たちも、皆さんメイクやファッションに悩まれていて「ファッション雑誌を買わなくなるよね」というような話をしていたんです。
そのときに「これって出版社にも、症状のある方にも、一般読者にもプラスにできる!」と思って。例えば、アザをカバーするメイクは症状のない人にも参考になるようなテクニックが満載だし、基本が「マイナスをプラスにする」「あるものを生かす」なので、知恵と工夫の宝庫なんです。これで特集組めば全員が楽しめるのでは?と。ファッション雑誌で「こういう症状がある人もいる」と知って損はないだろうし、若い当事者の方が今より少し生きやすく、生活が楽しくなってほしいなとも思います。
――少し前まではわかりやすい「美の集大成」のようなモデルばかりが取り上げていたけれど、最近は少しずつ、活躍するモデルの容姿も多様化しているようです。
水野:見た目に関する意識はこれからどんどん変わっていくと思います。美容整形も、その変化を踏まえて「不特定多数に愛されたい」「多くの人が美しいと価値を置く容姿になりたい」のであればスタンダードな目や鼻にすることも否定しないし、鈴木さんがおっしゃった「どんな愛がほしいのか」を考えて思い直したり、「整形してみたけど、違うじゃん」みたいなことを経験するのもいい。色々な経験や失敗ができる空気や環境があることが大事だと思います。

顔のアザへのコンプレックスを正面から描くと同時に、主人公が相貌失認の先生に抱く恋心も丁寧に描かれ、エンターテインメント性も強い作品となっている ©鈴木望/双葉社
鈴木:営業事務の仕事をしていたときに、営業さんに「明日新規のお客様のところに行くから、ちょっとアザ隠してきてね」って言われたんですね。当時は素直にメイクしていましたけど、どこかで「なんで隠さないといけないんだろう?」とも感じていました。カバーメイクは時間がかかるし肌もかぶれるし、そのために気分が下がるんだったら、自分が心地よく生きることを大切にしたい、隠さずに自分の好きな顔で生きたいと思ったんです。
水野:世界が変わるときってマイノリティだとされる人たちが「その(一般的な)考えはダメだ」と声を上げる、怒りも必要だと思うんですね。ただその怒りだけでは世界は変わらなくて、マジョリティを説得しなきゃいけない。「顔に症状がない人だって、見た目にとらわれないほうが生きやすくなるよ」って言うために、相手を魅了するかたちでメッセージを発信することが有効だったりもする。
『青に、ふれる。』は、魅力的な作品として見た目に関する問題を描いていて、素晴らしい形になっていると思うんですよ。こだわりを持って言いたい事を主張するところと、エンターテインメントとして他者を喜ばせるぞっていうところと、ふたつがないと世界は変えられない。この作品はそれができているんです。どうしてでしょう?
鈴木:私は話すのが苦手なんです。でも「私の話を聞いてほしい」って思いはある。だから漫画のような、みんなが楽しめるかたちだったら読んでもらえるかなと思ったんです。ただ私自身が少女漫画好き、というのもありますが(笑)。
――漫画を描くことで昇華されることはありますか?
鈴木:描くこと、読んでいただくことで昇華したものが沢山あるので、今描けていることに感謝です。絵については今もずっと勉強中で、正直下手だなと思う時もありますが、でも描きたいからしょうがない。伝えたいって思いもまだまだすごく強いです。
『顔ニモマケズ』で水野さんが見た目問題について書いてくださって、ほかにも本を出したり、演劇にしたりしてくださっている方がいて、そういう土台があるからこそ今、見た目問題について自分が漫画として描けたんじゃないかと思っています。
たまたま私がこの時代にいて、漫画を描けるから、私がバトンを渡されて描いているんです。1十代の頃からずっとコンプレックスを抱えてきて、孤独感を抱いていた。その頃の自分が読みたかったものを今の私が描くのがモチベーションのひとつです。
(第3回に続く)
【第1回の記事はこちら】⇒
顔に青あざがある少女を描く漫画『青に、ふれる。』が伝えたいこと<鈴木望×水野敬也対談>
●鈴木望
漫画家、山形県出身。『月刊アクション』(双葉社)にて、太田母斑の少女×相貌失認の先生の物語『青に、ふれる。』を連載中
●水野敬也
作家。著書に『夢をかなえるゾウ』、『人生はニャンとかなる!』など。また、恋愛体育教師・水野愛也として、著書『LOVE理論』、『スパルタ恋愛塾』がある
<取材/和久井香菜子 構成・執筆/ブラインドライターズ執筆部 撮影/我妻慶一>