太りやすい、疲れる…朝の“隠れ”たんぱく質不足で起きる意外な深刻ダメージ
突然ですが、今日の朝食は何を食べましたか? パン1個だけ、コーヒーや野菜ジュースだけ……なんていう朝食も“あるある”ですよね。
昨年、『ガッテン!』(NHK、2021年11月17日放送)で取り上げられたことで話題になった、「朝たん」というワードをご存知でしょうか?
「朝たん」とは、朝食にたんぱく質を摂ること。健康のためにも美容のためにも、「朝たん」を習慣づけることはとても大切だそうなんです。朝にパンや果物などしか摂っていない身としては、ドキッとしちゃいます。
そこで、「朝たん」の重要性について、幅広い世代への栄養支援を行っている立教大学コミュニティ福祉学部スポーツウエルネス学科の杉浦克己教授に聞いてみました。
杉浦先生によると、昨今の日本人の食生活は明らかに朝食で摂るたんぱく質の量が少ない傾向にあるそうです。
「私は小学生から高齢者まで幅広い世代の食事調査を行っているのですが、全世代において朝食では一日に必要なエネルギーの1~2割程度しか摂っていない人が目立ちます。しかも、その内容はパンやスムージーだけとかいう人が多い。これではたんぱく質はせいぜい3g程度しか摂れていないでしょう」(杉浦先生、以下同)
その代わり、夕食でたんぱく質を含む肉や魚などをしっかり食べ、一日に必要なカロリーの半分以上を補っている人が多いそうなのですが、この食習慣はおすすめできないと杉浦先生は言います。
「たんぱく質は“食べ溜め”ができません。たんぱく質は筋肉をつくる=合成してくれますが、一度に合成できる量には限度があるので、使われなかった分は脂肪などのエネルギーとして蓄積されてしまいます。
また、体質によっては大量のたんぱく質をうまく消化吸収できないため、胃腸の不調を招いてしまうことも。たんぱく質の栄養上のメリットをしっかり享受するには、できるだけ3食で均等に摂るべきなんです」
ええっ!夕食で肉や魚をドカ食いして、帳尻合わせた気になっていました…。
いくら夕食でたんぱく質をたくさん摂って1日トータルで足りていても、朝食で摂らなければ、結果的に体全体で必要なたんぱく質が不足してしまうんですね。摂っているつもりが足りていない、“隠れ”たんぱく質不足に陥ってしまうわけです。
では、たんぱく質を朝食で摂らずにいると、私たちの体の中では具体的にどんなことが起こるのでしょうか?
「たんぱく質を摂ると体は合成モードに入るので、夕食でたんぱく質を摂れば入眠後もしばらくは筋肉の合成が続きますが、朝に近づきエネルギーが不足してくると今度は筋肉の分解が始まります。
たんぱく質に含まれるアミノ酸は臓器や免疫機能の働きなど生命維持のためにも使われるので、人間の体にはアミノ酸が不足すると筋肉を分解して補う仕組みがあるんですね。それなのに朝食でたんぱく質を補給してあげないと、筋肉の分解が長く続くことになるので、結果的に筋肉量の減少につながってしまうんです」
筋肉量が減少することは、私たちの体にさまざまな健康被害をもたらすといいます。
「筋肉は体のパワーの源なので、減少すると体力が落ちて疲れやすくなりますし、基礎代謝が下がって太りやすく痩せにくい体にもなります。筋肉は水分量が多い組織で肌にハリを出してくれるので、筋肉の減少は見た目にも悪影響を及ぼします」
また、たんぱく質は免疫機能にも関与するので、不足が続くと感染症などにかかりやすくなるというリスクも。血液の中のヘモグロビンなどもたんぱく質のひとつなので、たんぱく質不足が貧血の原因になることもあるそうです。
「女性の場合、たんぱく質不足の状態が続くと更年期症状が辛くなる可能性があります。さらに、コラーゲンなどのたんぱく質は骨を構成する成分でもあるので、若い頃のたんぱく質不足のせいで骨密度が低くなり、早くに骨粗しょう症になってしまう可能性も十分に考えられます」
今の体調だけでなく、将来の健康を考えても、たんぱく質が必須だということ。貯金や投資は若いうちに始めるほどトクですが、たんぱく質摂取も同様の意識で、未来の自分を見据えて、今日から毎日コツコツと継続的に摂取していきたいですね。
そこでぜひ習慣にしたいのが、「朝たん」です。
「朝のたんぱく質摂取で筋肉の合成スイッチを押してあげれば、睡眠中に進んでいた筋肉の分解がストップして筋肉量の減少を防ぐことができ、体全体の健康維持にもつながります」と杉浦先生が言うように、朝にたんぱく質をしっかり摂る習慣をつけることで、先に挙げたようなさまざまなリスクを改善&予防できるわけです。
また、体内時計を考慮した時間栄養学の観点からも、朝のたんぱく質はとても重要なのだそう。
「人間の体内時計は24時間よりも長いため、我々はその誤差を太陽の光による刺激でリセットして24時間に調整しているのですが、朝食も体内時計のリズムを整える手助けになります。
咀嚼して唾液や酵素を分泌して消化して……と体が動き出すこと自体がリズムを整えることに繋がるのですが、そこにたんぱく質があると、しっかり体温が上がりエンジンがかかりやすくなるのです」
体内時計がうまく働かないと、不眠や疲労感、やる気の低下などが起こりやすくなり、自律神経失調症や生活習慣病を引き起こすこともあるとか。朝はなかなかエンジンがかからない人や、なんとなく不調を感じている人は、朝にたんぱく質を摂るよう意識すべきだそうです。
杉浦先生がすでに説明しているとおり、たんぱく質は3食均等に摂ることが大切。となると、朝食においてはたんぱく質をどれくらい摂るのが望ましいのでしょうか。
「たんぱく質の推奨量は成人女性だと一日50gになので、一食の目安はだいたい20gくらい。ただ、体重によっても推奨量は異なりますし、これまで朝食ではたんぱく質を3g程度しか摂っていなかった人がいきなり20gを摂るのは難しいかもしれないので、まずは+10gを目指してみてはいかがでしょうか」
※ただし例外もあります。「腎臓病または腎臓病のリスクが高い方はたんぱく質の摂取量に注意が必要です。心配な方は医師に相談のうえ食生活の見直しを行ってください」とのこと。
たんぱく質の中でも、とくに朝食におすすめなのは、動物性たんぱく質のひとつである“乳たんぱく質”だそう。
「乳たんぱく質は手軽に摂れる食品が多いだけでなく、他のたんぱく質と比べて人間の体ではつくれない必須アミノ酸をバランスよく含んでいます。しかも、その必須アミノ酸の中でも筋肉をつくるのに欠かせないBCAA(バリン・ロイシン・イソロイシン)を豊富に含んでいるので、効率よく筋肉合成のスイッチを押してくれます」
乳たんぱく質を含む食品といえば、牛乳やヨーグルト、チーズなど。どれも調理せずに食べられるので、忙しい朝にはぴったりです。
「毎朝のパンにチーズを乗せてみるとか、コーヒーに牛乳を入れてみるとか、スムージーにヨーグルトを入れてみるとか、大きく食事を変えなくても乳たんぱく質は簡単にプラスできます。最近はヨーグルトやパンなどのたんぱく質強化商品もたくさん出てきているので、そうしたものを活用するのもおすすめです」
それは楽チン!朝からアジの干物やらハムエッグやらを焼くのはゲンナリしますが、調理&洗い物ゼロでいいたんぱく源はいくらでもありますもんね。
いまや、スーパーやコンビニには、たんぱく質を強化した食品がたくさん並んでいます。そこで、朝食でたんぱく質+10gを実現するために、便利なたんぱく質強化食品の例を調べてみました。
※( )内はたんぱく質量
●「TANPACT」シリーズ:明治
TANPACT ミルク(1個10g)
TANPACT ギリシャヨーグルト 甘さひかえめ(1個10g)
TANPACT(タンパクト)という名前がそのまんまですが、乳たんぱく質を強化したシリーズ。朝食にはギリシャヨーグルトや飲料(ミルク、カフェオレ他)やスープが合いそうです。その他にも、スープやチョコレート、ビスケット、チーズグラタン、チーズドリアetc.などのラインナップがあり、各々のライフシーンに合わせて、乳たんぱく質をたっぷり摂れるシリーズです。
●SOY JOY シリーズ:大塚製薬
・スコーンバー プレーン(1本4.7g)
大豆を粉にした生地に、フルーツやナッツを練り込んだバー「SOY JOY」シリーズ。植物性たんぱく質を手軽に摂れます。甘めでおやつ向きのが多いですが、朝食には「スコーンバー プレーン」が向きそうです。死ぬほど時間がない朝には、出勤中に歩きながら食べちゃうのもアリ!?
●ブランパン:ナチュラルローソン
(ロールパン型 1個5.9g)
ブラン(穀物の外皮)を使ったパンは、ナチュラルローソンの大ヒット商品。食物繊維が多いことで知られますが、実はたんぱく質も多いんです。ロールパン型のほか、食パン、デニッシュなどがあります。
●高たんぱく おさかなソーセージ:イオン トップバリュ/マルハニチロ
(1本8.2g)
たんぱく質豊富で低カロリーだとして、最近見直されている“ギョニソー”こと魚肉ソーセージ。さらに、たんぱく質を強化したのが、この商品です。賞味期限も90日と長いので、買いだめしておくと便利。
…ということで、朝にたんぱく質を摂る習慣をつけるかどうかで、10年後、20年後の健康状態が大違いだと身にしみてわかりました。未来の自分のために、さっそく朝たん始めましょう!
<取材・文/持丸千乃>
日々仕事や家事に追われていると、朝食を作るヒマがあったら寝ていたい…。「朝食はパン1個かじるのが精いっぱいだけど、そのぶん、夕食はちゃんと栄養を摂ってるから大丈夫」という人も多いでしょう。
しかし! こうした食習慣には大いに問題があるらしいのです。