枯れたおじさんと不倫する、田舎住み25歳女性の胸のうち。“純粋に”恋に突っ走る恐ろしさ|ドラマ『泥濘の食卓』
漫画家・伊奈子さんによる話題作『泥濘(ぬかるみ)の食卓』が同名ドラマになった(テレビ朝日系、土曜よる11時30分~)。
冒頭から怖さ全開である。25歳の捻木深愛(ねじきみあ/齊藤京子)は、子どものころから両親に否定されながら育った。父亡きあとも看護師の母・美幸(筒井真理子)は、悪意がないままに深愛を否定し続けている。まず、この母が怖い。筒井真理子という達者な役者は、圧倒的な説得力をもちながら毒母をごく自然に演じている。娘を愛している母として。
そして深愛のピュアな瞳と頬の艶やかさが怖い。親にもいっさい逆らわず、そもそも逆らう発想もなく、親に言われた通り、「自分にはなんのとりえもないから、せめて人の役に立ちたい、人に優しくしたい」と思い込んでいる。
就活に失敗した深愛は、地元田舎町のスーパーで一生懸命働いている。だが、親に見せる従順な顔の裏で、彼女はスーパーの店長・那須川(吉沢悠)と不倫の恋に落ちていた。
スーパーで荷を持ち上げようとして重くて上がらず悪戦苦闘している深愛のもとへやってくる那須川。ドキリとする深愛。そんな深愛に那須川は口づける。すっかり枯れたように見える那須川に魔が差した瞬間なのだろうか。吉沢悠の適度な老けっぷりが、いかにもその場限りの優しさで不倫してしまう薄っぺらい男性を想像させる。
しかし、この人もうまい役者である。4月期に『夫婦が壊れるとき』(日本テレビ系)で、妻を巧みに騙してゲス不倫をする夫を演じていたが、今回もまた不倫夫役。とはいえ前作を思い起こさせることはまったくない演技なのだ。
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深愛と那須川がどのくらいの期間つきあっていたかわからない。ただ、ホテルからの帰りに「ごはんに行きましょ」と深愛が言っていることから、いつもホテルデートばかりだとわかる。初めてピアスをプレゼントされたことや、食事にも行かずに始まってしまった不倫だということから、まだそれほど長く続いているとは思えない。
そして初めて食事に誘われたその現場で、深愛は彼から別れを切り出される。妻がちょっと精神的に調子が悪いともごもご言い訳をする那須川。
そんな彼を見て、彼女は微笑みかける。「大丈夫ですよ」と。これは彼女のキーワードだ。常にそうやって誰かを励まし、誰かに優しくし、誰かの役に立ちたいと本心から思っているのだ。学校をさぼってスーパーにやってきて外のベンチに座っている高校生の男の子・ハルキのことも励ましながら見守っている。
その場限りの優しさで不倫する薄っぺらい男
突然別れを切り出されても、笑って応じる理由
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