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最恐の悪役がハマりすぎている福山雅治。もはや笑ってしまう領域に

 2023年12月15日よりディズニー100周年を記念したアニメ映画『ウィッシュ』が公開中だ。
© 2023 Disney. All Rights Reserved.

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 本作の魅力は、2Dアニメ時代のディズニーを思わせる手描きタッチの質感と躍動感のある3Dアニメの融合、メロディアスで思わず口ずさみたくなる楽曲の数々、これまでのディズニーでも描いてきた「夢」にまつわる集大成的なテーマなど、枚挙にいとまがない。  物語そのものはやや駆け足でスケールが小さめな印象もあるものの、95分の上映時間(約9分間の短編『ワンス・アポン・ア・スタジオ 100年の思い出』も同時上映)の中で見せ場がたっぷりと詰まっているので、未就学児であっても、きっと飽きずに楽しめることも長所だろう。  吹き替え版で主人公の声および歌唱を担当した生田絵梨花(字幕版ではアリアナ・デボーズ)の表現力も素晴らしかったが、ここではディズニーヴィラン(悪役)を演じた福山雅治を推したい。  意外と言うべきか、54歳の福山雅治にとって、自身初のミュージカル作品への参加となるそうだが、もはや史上最高の福山雅治だと思えるほど、最低で最高の悪役に激ハマりだったのだ。ネタバレにならない範囲で、その理由を記していこう。

自己中心的な独裁者という言葉でも足りない悪

『ウィッシュ』より 悪役のマグニフィコ王は、初めこそ魔法の力で国民の願いをかなえている、善良で偉大な王にも見える。だが、実際にかなえるのは国のためになる願いだけで、他の願いは持ち主に返さず、その力を利用して強大な魔力を手に入れようともしていたのだ。  端的に言えば自己中心的な独裁者なのだが、そうした単純な言葉だけに落ち着かせてはくれない。そのことがはっきりと表れるのが、「無礼者たちへ(原題:This Is The Thanks I Get?!)」のソロ歌唱シーンだ。 「何もかもが完璧。情熱的、だけど冷静、そして誰よりも慈悲深い!」と自画自賛する様も強烈だが、ここで彼は貧しい国民の人形の家に火をつけて、その家が倒壊すると「住む場所もなく困っているなら、私の城においで! もちろん、タダでいい」と言うのだ。  貧困となる理由をわざと作ったあげく、その困窮した状況に付け入ろうとする様は、ずる賢いという言葉でも足りない。

「自分を悪だとも思ってもいない悪」こそ恐ろしい

『ウィッシュ』より さらに、彼は「与え、与え、与えまくれば、満足だろう!? だが忘れるな、感謝の気持ちを! なんて無礼な! 恩知らずめ!」とまで歌う。実際には国民を搾取している立場のはずなのに、むしろ「与えている」と自負し、それについて感謝しないことを「無礼」だとさえ思っているのだ。  マグニフィコ王はいわば「自分を悪だとも思ってもいない悪」だ。「お前のほうが悪いじゃん? 何を言っているの?」というように、相手に平然と問題や責任をなすりつける者こそ、真の邪悪なのだとも思わせる。  他の作品で言えば、たとえば映画『孤狼の血 LEVEL2』(2021)に出演した鈴木亮平は「私自身がいちばん怖いと思う人は、『自分を悪いと思っていない人』だと思い至りました」と語っており、その通りの恐ろしい悪役を見事に演じていたこともあった。  逆に言えば、「自分の行いが善か悪か、正しいか間違っているかで悩み、時にはわからなくなる者」は、善良だという証拠でもあるのかもしれない。その問いかけは、近年では映画『イコライザー THE FINAL』(2023)の劇中でもされており、それもひとつの真理だろう。
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『君たちはどう生きるか』の木村拓哉も連想するワケ
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