
当クリニックを訪れる性依存症患者への初診時のヒアリングでは、ほかに「学生時代のいじめ被害」や「原家族(自分が生まれ育った家族)の機能不全」の有無についても尋ねることにしています。
それによると、盗撮加害者で、学生時代にいじめ被害に遭った経験に「あり」と回答した人は 20%(104人)でした。また、虐待やDV、親のアルコール問題など、原家族に何らかの機能不全があったかどうかでは82%(427人)の人が「なし」と回答しています。
つまり、
ごく普通の家庭に生まれ育ち、両親から十分な愛情を注がれてきたということです。本人たちもそのように回答しています。これも、痴漢加害者とほぼ同じ傾向です。
ちなみに、有意な差があるかと言われると難しいのですが、盗撮加害者と長年関わっていると、
痴漢よりも「他者回避型」(他者からの拒絶を恐れて親密さを嫌う性向)の人が多い印象があります。彼らには、「僕は根性がなくて痴漢はできないので盗撮しています」と語り、本当は触りたいのに勇気がなくて触れないから、非接触型で気づかれにくい盗撮行為に走ったという人が一定数存在します。
ただ、これらはあくまで統計上の平均像です。実際には、ある男性が盗撮に手を染め、やめられなくなっていくまでには、さまざまな個別の背景や事情、その人だけのストーリーが存在します。また、彼らがそこからどうやって治療へとつながり、回復の道をたどっているかも十人十色です。

『盗撮をやめられない男たち』(扶桑社)
<文/斉藤章佳>
斉藤章佳
精神保健福祉士・社会福祉士。大船榎本クリニック精神保健福祉部長。1979年生まれ。大学卒業後、榎本クリニックでソーシャルワーカーとして、アルコール依存症をはじめギャンブル・薬物・性犯罪・DV・窃盗症などの依存症問題に携わる。専門は加害者臨床で、2000人以上の性犯罪者の治療に関わる。著書に『男が痴漢になる理由』『万引き依存症』『
盗撮をやめられない男たち』など多数