翔太さんが言うには、今までお母さんや歴代の彼女の料理をこの調子で食べてきたけど「美味しそうにいっぱい食べてくれて嬉しい!」と感謝されるばかりで、非難されたことなど一度もなかったそうで…。
「お母さんならまだしも、歴代の彼女はよほど母性の強い人だったのか…とにかく私には信じられませんでした。だって全く相手のことを考えていないってことですよね?
もし私がおかわりしたくなって、お肉が残っていなくて悲しんだらどうするの?そういう想像力はないの?って不思議で」

そのような翔太さんの振る舞いを見ても、さほど気に留めない女性も一定数いると思いますが、千夏さんはどうしても許せませんでした。
「実は私の父がいわゆる“食べつくし系”で子供の頃から、私や母親のメインディッシュを平気で横取りしたり、よそからいただいた高級なケーキを独り占めされたりして、とても哀しい思いをしてきたんですよね」
その度に“父はこうやって自分の立場が上なことを誇示して、気持ちよくなっているに違いない。結局私や母には何をしてもいいと軽く見ていて、つまりはバカにされているのだろう”と絶望的な気持ちになっていたそう。
「そんな家庭環境だったので、翔太さんのしたことに過剰に食いついてしまったのですよね…でも、どうしてもゆずれない部分だったし、私のこだわりなので、相性が悪かったんだと諦めることにしました」

それ以来、翔太さんとは連絡をとるのをやめました。
「別れ際、翔太さんに『残りの肉なしビーフシチューどうするの?』と聞いたら、味気(あじけ)ないから捨てると言うので持ち帰りました。
付き合う前に合わない相手だって気がつくことができて良かったですが、なんか虚しい気持ちになってしまいました」とため息をつく千夏さんなのでした。
<文&イラスト 鈴木詩子>
鈴木詩子
漫画家。『アックス』や奥様向け実話漫画誌を中心に活動中。好きなプロレスラーは棚橋弘至。著書『女ヒエラルキー底辺少女』(青林工藝舎)が映画化。Twitter:
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