願いが叶う直前でまさかの拒否!親の心 子知らず【シングルマザー、家を買う/33章・後編】
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そう満面の笑みで娘の方を向くと、なんだか様子がおかしい。娘はもう少しで気球というところで一歩も歩こうとしないのだ。
え? 何、どうした?
具合でも悪いのかと思い、心配して近づくと、ぶるぶると震えている。友達も不安に思い、「どうしたの?」と声をかけてくれるが、反応がない。
焦った私は娘の肩を強く持ち、「どうした?」と聞くと、ゆっくりと口を開いてこういったのだ。
「の、のらない」
え。
え!?
今何と!?
私「いや、これを乗るために東京からはるばるやってきたんだよね」
娘「いやだ! のらない!」
私「いやいや、これに乗りたいというアンタの願いを叶えるために、ママは頑張って仕事調整して、すごい量の原稿書かないともらえないくらいのお金払ってはるばる来たんだけど、なに、どうした」
東京から旅費を含めて3人で7万近くかかっている。これは相当な金額だ。そのプレッシャーに押されて、もはや母親として言ってはいけない情報までベラベラと話しだし、無理やりでも乗せようとする私だったが、娘は絶対に譲らない。
「いや、いやー!!! ぜったいのらない!!!!!」
いや、落ち着こう。これは落ち着こうではないか。
……いや、落ち着いてはいられない! シングルマザーとして、私はやったるぞ的な決意を、あんたのためにしっかりと表現したくてここまで来たんですけど! ここ十勝ですけど! 十勝ですけども!!
その後、30分ほど説得にかかるも、娘は絶対に乗らないと決め込んだらしい。さすがB型さそり座の頑固な娘……。

せめて、その理由だけでもきかせてくれないかい? 説得を諦め、ぐったりした私の耳元で娘はこう言ったのだ。
「音がうるさい」
あぁ、あの下からでる熱気のゴーって音ね……。たしかに「いないいないばぁ」ではこのゴーって轟音、聴こえなかったよね……。でもね、この轟音込みで気球なんだよね……私も初めて知ったけどさ……。
もうそれなら仕方ない。
いいよ、無理やり乗せったって楽しくないしさ……。それなら、息子を乗せよう。そう思って受付に行くと、なんと3歳以下は乗れないらしい。当時、息子は1歳半……。
そうだ、友達と一緒に乗ろう! そう思って友達に視線を向けると、「私高所ダメだから」とズバッと断られてしまった。
もう、ここまで来たら私が一人で乗るしかない。これで誰も乗らないなんてありえない。私はたいして乗りたくもない気球に乗るために、一人で受付に足を運んだ。
そこで言われたのが、「お一人ですか?」……。
どうせ、あんなに子供とか友達とか一緒にいるのにって思っているんだろうな……。いいおばさんが一人ではしゃいでるなって思っているんだろうな……と、思い切りマイナス思考になりながら、3000円を支払い、乗り込んだ。
そこには、さらに大きな轟音をBGMに、どこまでも抜ける青空と、北海道ならではの自然が視界に広がっていた。その眺めは、本当にキレイである。それまでのささくれだった気持ちが滑らかになっていくのも実感できた。
この風景を、娘にも見せたかったな……。
そんな感傷的な気持ちになりながら、娘は今の私を見て手を振ってくれているだろうと思い下を見ると、娘と息子、そして友達は下で草イジリをしているではないか。
一人寂しく空に浮かぶかぁちゃんのことなんて、誰も見てもいない。その時に強く、強く、思った。
「親の心 子知らず」と。
その後、北海道から東京に帰宅すると、ポストに一枚のチラシが入っていた。そこには、大きな文字でこう書いてある。
「気球体験、1000円でできます!」
まじか、まじかよ! ここ東京だぜ!? 開催される場所は、自宅から歩いて15分の大きな公園……。
その瞬間、膝から崩れ落ちたのは言うまでもない。
<TEXT/吉田可奈 ILLUSTRATION/ワタナベチヒロ>
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【吉田可奈 プロフィール】
80年生まれ。CDショップのバイヤーを経て、音楽ライターを目指し出版社に入社。その後独立しフリーライターへ。現在は西野カナなどのオフィシャルライターを務め、音楽雑誌やファッション雑誌、育児雑誌や健康雑誌などの執筆を手がける。23歳で結婚し娘と息子を授かるも、29歳で離婚。座右の銘はネットで見かけた名言“死ぬこと以外、かすり傷”。Twitter(@singlemother_ky)
※このエッセイは隔週水曜日に配信予定です。
いやでも叶えてやる!

娘が気球に乗らないまさかの理由
親の心、子知らず

- ママ。80年生まれの松坂世代。フリーライターのシングルマザー。逆境にやたらと強い一家の大黒柱。
- 娘(8歳)。しっかり者でおませな小学2年生。イケメンの判断が非常に厳しい。
- 息子(5歳)。天使の微笑みを武器に持つ天然の人たらし。表出性言語障がいのハンデをもろともせず保育園では人気者
吉田可奈
80年生まれ。CDショップのバイヤーを経て、出版社に入社、その後独立しフリーライターに。音楽雑誌やファッション雑誌などなどで執筆を手がける。23歳で結婚し娘と息子を授かるも、29歳で離婚。長男に発達障害、そして知的障害があることがわかる。著書『シングルマザー、家を買う』『うちの子、へん? 発達障害・知的障害の子と生きる』Twitter(@knysd1980)
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『シングルマザー、家を買う』 年収200万円、バツイチ、子供に発達障がい……でも、マイホームは買える! シングルマザーが「かわいそう」って、誰が決めた? 逆境にいるすべての人に読んでもらいたい、笑って泣けて、元気になる自伝的エッセイ。 ![]() |