病院にまさかの「貞子」!?【シングルマザー、家を買う/31章・後編】
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息子が通っている療育センターで、いつもは使っていない部屋を使う日があったのだ。その部屋は、向かいが病室のためカーテンが閉め切られており、少し薄暗かったが、電気をつけるといつもの部屋と変わらないものになった。
しかし、その時の息子の怯えようは半端じゃなかった。絶対にその部屋に入ろうとしないのだ。さらに、私の腕を両手で抱え込むように抱き、絶対に離そうとしない。
「なんだよ~、ほら、リハビリはじめるよ~」
と手を振りほどこうとすると、普段はほとんど泣かない息子が絶叫するように泣き出したのだ。これは異常である。
「あの、先生。この部屋ってなんかあるんですか?」と恐る恐る聞くと、「私もほとんど使わないのでわからないんですけど……」と、先生も戸惑う様子。
とりあえず、1カ月に3回しかできない療育の時間を短くするのはもったいないので、机に座らせようとすると、息子はカーテンを指さして「アアアアーーーーー!」と叫び出したのだ。
あまりの剣幕に「カーテン、開けてもいいですかね」と聞き、勢いよく開けてみると、そこには向かいの病室との間に2畳ほどの不自然な中庭が存在していたのだ。
さらにその中庭の生い茂った芝生の中央に、古いビニールシートが何かを隠すように覆っている。
「先生、これって何ですかね?」
「あぁ、たぶん井戸じゃないかな……」
井戸……。封じた井戸……。
そこで脳内に流れた音楽は「♪く~る~ きっとくる~!」(『feels like HEAVEN』HⅡH)
貞子! もう貞子やん! 貞子、でてくるやん!!!!
あー、もう、完全に息子はこの井戸のことを言っているんだと悟った私は、試しに息子を抱きかかえ、井戸を見せようと窓際まで運んでみた。すると、今までにない怪力で拒否され、泣き叫ばれたのだ。
はい、もう決定ですね。これが嫌なんですね……。
さすがの先生も「ち、違う部屋にしましょう」と部屋をチェンジしてくれ、違う部屋に入った途端、息子は平静を取り戻し、いつものようにリハビリを開始することができたのだ。
私はもちろん、娘も霊感なんてゼロ。むしろ、極度の怖がりで、怖いものは全部作り物と思い込むように生きてきた。『呪怨』にでてくる白塗りの男の子は「この子は優秀な子役! メイクに時間がかかっているんだ!」と思い込むほど怖がりな私に、なぜこんなにも感じてしまう息子が宿ってきたのだろう……。
やめて! もう、怖すぎるぅぅぅ!!
それからというもの、息子が指をさして「ア!ア!」と叫ぶところには、振りかぶって塩をブチ撒くようにしている。私には、何も視えないけれども。
神様はどうやら、息子に対して話す力の前に、霊感を与えてくれたようだ。余計なことはしないでもらいたい。マジで。
<TEXT/吉田可奈 ILLUSTRATION/ワタナベチヒロ>
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【吉田可奈 プロフィール】
80年生まれ。CDショップのバイヤーを経て、音楽ライターを目指し出版社に入社。その後独立しフリーライターへ。現在は西野カナなどのオフィシャルライターを務め、音楽雑誌やファッション雑誌、育児雑誌や健康雑誌などの執筆を手がける。23歳で結婚し娘と息子を授かるも、29歳で離婚。座右の銘はネットで見かけた名言“死ぬこと以外、かすり傷”。Twitter(@singlemother_ky)
※このエッセイは隔週水曜日に配信予定です。
病院にまさかの「貞子」!?

神様、余計なことしないで!

- ママ。80年生まれの松坂世代。フリーライターのシングルマザー。逆境にやたらと強い一家の大黒柱。
- 娘(8歳)。しっかり者でおませな小学2年生。イケメンの判断が非常に厳しい。
- 息子(5歳)。天使の微笑みを武器に持つ天然の人たらし。表出性言語障がいのハンデをもろともせず保育園では人気者
吉田可奈
80年生まれ。CDショップのバイヤーを経て、出版社に入社、その後独立しフリーライターに。音楽雑誌やファッション雑誌などなどで執筆を手がける。23歳で結婚し娘と息子を授かるも、29歳で離婚。長男に発達障害、そして知的障害があることがわかる。著書『シングルマザー、家を買う』『うちの子、へん? 発達障害・知的障害の子と生きる』Twitter(@knysd1980)
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