「バトル・オブ・ザ・セクシーズ」はヒラリー対トランプ!?

『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』より
――本作がアメリカでテスト上映されたときは、ちょうどアメリカの大統領選の最中で、アメリカの観客は、ビリー・ジーンとボビーの戦いをヒラリーとトランプに重ねたのだとか。
ヴァレリー:ちょうど2回目のテスト上映が大統領選の直後に行われました。
「大統領選でヒラリーに勝ってほしかった!」という願いがこの映画で叶って、スカッとした人もいたようです。
ジョナサン:なにしろ、大統領選の前は誰もがヒラリーが勝つと思い込んでいたからね! なので、この映画を観たときに、
「1970年代から社会はなにも変わっていないんだ」とショックを受けた観客もいたと聞きました。
――去る5月に話題になりましたが、トランプ大統領は、テニス界の女王であるセリーナ・ウィリアムズに勝ったら100万ドル払うとジョン・マッケンロー(元男子世界チャンピオン)に語ったそうですね。まるでこの映画を意識したような発言です。
ヴァレリー:あの発言にはびっくりしましたね!
私はセリーナが絶対に勝つと思う(笑)。
――私もセリーナが勝つと思います(笑)。両監督による男性と女性両方の視点があったからこそ、おもしろい映画に仕上がった本作ですが、お二人の間で、「バトル・オブ・ザ・セクシーズ」は起こらなかったんですか?
ヴァレリー:ハハハ。う~ん、実はそんなになかったんだけど……(夫のほうを向いて)ほら、なんか言わなきゃ(笑)。
ジョナサン:そうだ、ビリー・ジーンとマリリンのラブシーン。2人の女性のラブシーンだから、男性目線のシーンにはしたくなかった。あのシーンについてはヴァレリーの意見を尊重したかな(笑)。
――ご夫婦で映画を作るメリットは?
ヴァレリー:映画を作る過程において、なにかを偶然に思いつくことが多いんです。常に話し合っているので、会話をしているだけでいろいろな発見がありますね。コラボレーションのライブみたいな感じ(笑)。
ジョナサン:メリットは2つあります。ひとつは、二人で脚本を読みあってシーンを演じられるので、新しいアイディアが出てくること。もうひとつは、家に帰ってひらめいたアイディアを、すぐにシェアできること。
ヴァレリー:それから、仕事上の悩みを分かり合えるってことかな。いちいち説明しなくても分かってくれるので、とても楽ですね。
――夫婦で一緒に働くことには、メリットも多いことがよく分かりました。ただ、高齢化社会の日本は、2035年頃までに人口の半分が未婚になる、世界でも珍しい“超ソロ社会”になるという説もあるのです。もちろん、高齢化で子供が少なくなっている背景もありますが、日本人の結婚観も変わってきているのかもしれません。
両監督:(声をそろえて)えっ、本当に!? ワオ!
ジョナサン:私たちも結婚という制度は重要視していなくて、夫婦別姓だし、結婚指輪もしていないんですよ。それに、映画のポスターやクレジットにも、あえてヴァレリーの名前を一番目に記載しているんです。ただ、“パートナーシップ”は大切じゃないかな。
人生における最上の喜びとは、いろんな体験をパートナーと“シェア”することだと思うんです。
例えば、育児や仕事においても、一番幸せを感じるのは、「いまの見た? すごかったよね~」とヴァレリーと喜びを分かち合うことなんです。
ヴァレリー:現代は、ソーシャルメディア上で誰かと繋がっているような錯覚に陥りますが、実は、面と向かった人間関係は減ってきていますよね。だからこそ、
希薄になってきた人間関係の大切さを、この作品を通して問いかけたかった。
ジョナサン:「バトル・オブ・ザ・セクシーズ」というタイトルにしたのも、ビリー・ジーンもボビーも、性別関係なしに、それぞれに悩みを抱えた、ひとりの人間だということを示したかったんです。二人とも結婚生活に問題がありますが、様々な試練を乗り越えて、お互いのパートナーとよりよい関係を築いていきます。本作はテニス映画というよりは、人間関係を描いた物語なんです。