シビアな高齢出産の現実。リスクが高まるのは何歳頃から?│医師に聞く
人生設計の多様化や女性の社会進出、晩婚化や医療の発達などによって増えつつあるおおむね35歳以上の妊娠、高齢妊娠。リスクが高いといわれていますが、現状はどうなっているのでしょうか。高齢出産の現場に数多く携わってきた産婦人科医の富坂美織先生に話を聞きました。
高齢妊娠、出産と深く関わり合うケースが多い不妊治療。富坂先生によると、「現在は6組に1組のカップルが不妊の時代」だといいます。
不妊症とは、生殖年齢の男女が妊娠を希望し、ある一定期間避妊することなく性生活を行っているにもかかわらず、妊娠の成立をみない場合をさし、最近ではその一定期間は1年というのが一般的です。
富坂先生は現場で、以下のような相談をよく受けているそうです。
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「32歳で結婚したのですが、当初は仕事をしたいのでピルを飲んで避妊していました。38歳になって子どもをつくろうとピルを止めたのですが、2年経っても子どもができません」
「39歳で結婚し、今年40歳です。夫は52歳です。もう子どもをつくるのは無理でしょうか」
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富坂美織先生によると、「このように、結婚して数年経ってから子どもをつくろうと思ってもできない、もしくは40歳前後の結婚なので、というのが代表的な相談の例です。最近は結婚年齢が高くなっているので、挙児希望の場合には早めの専門クリニック受診をオススメします」とのこと。
そもそも高齢妊娠・出産にはどんなリスクがあるのでしょうか。
「高齢妊娠・出産では、赤ちゃんの染色体異常のリスクが高くなり、流産率も高まります。また、妊娠中には、糖尿病や高血圧になるリスクが上がりますし、お産の時には、子宮の入り口の伸展が不足してしまいがちだったり、陣痛が弱かったり、お産までの時間が長引きやすく、妊婦さんも疲労しやすいので、帝王切開となるケースも増加します。」(富坂先生、以下同)
一方で、不妊治療技術の進歩によって、高齢妊娠・出産が増えているという現実も。
「不妊治療の現場では、技術が日に日に進歩しています。以前よりも安全に治療を受けることができるようになりました。
平成10年代から20年代でみると、およそ10年間で、35歳以上の女性の出産の割合は倍増しています。不妊治療を受ける患者さんの平均年齢も年々上がってきており、体外受精を受ける女性の少なくとも3人に1人は40歳以上です。
不妊治療はカップルでの治療が原則ですが、例えば、どうしてもクリニックで検査を受けることに抵抗がある男性向けに、スマホのカメラを活用した精液検査も行えたりします。
しかし、不妊治療でより多くの人が子供を授かることができるようになった一方で、上記のような高齢妊娠・出産によるリスクが増え、産科医療の現場がより大変になっていることも事実です」
また、自然妊娠についての正しい知識も必要とのこと。
「最近は高齢出産のニュースをよく見聞きするようになったため、『40代後半になっても生理があれば妊娠できるのでしょう?』と聞かれることが増えてきました。生理がきていることが妊娠の基準と思っている方も多いのです。
ですが、『生理がある=妊娠可能』ではない、というのが現実。イメージとしては、女性の卵子は、生まれたときからずっと自分と一緒におなかの中で歳をとっていきます。簡単に言うと、女性の卵子は、実年齢が40歳であれば卵子年齢も40歳ということになります。ですから年齢とともに卵子も老化し、たとえ生理があっても妊娠は難しくなります。
一般に自然妊娠しやすい時期、そして安全に妊娠・出産できる年齢は、社会的な要因も考慮すると、20歳くらいから、生理が変わってくる前の36~37歳ぐらいまでかもしれません」
不妊治療の現場では自然妊娠を望む声も多数あると思います。少しでも妊娠しやすい身体づくりのためにできることはあるのでしょうか。
「基本ではありますが、ストレスがかかりすぎない生活を心がけ、適度な運動とバランスのとれた食事の摂取です。最近では、卵巣機能と免疫機能にも深くかかわるビタミンDがいいと言われています。葉酸の他に、ビタミンDをサプリで摂取してもいいでしょう」
―高齢出産の基礎知識・第1回―
【富坂美織(とみさか・みおり)】
産婦人科医、医学博士。順天堂大学医学部卒業、東京大学医学部研修医、愛育病院産婦人科医を経て、ハーバード大学大学院へ留学。卒業後、マッキンゼーにて、コンサルティング業務に携わる。山王病院などを経て、現在は不妊治療が専門。順天堂大学医学部産婦人科教室非常勤講師。さくらウィメンズクリニックにおいても不妊治療に従事。著書は『「2人」で知っておきたい 妊娠・出産・不妊のリアル』(ダイヤモンド社)、『ハーバード、マッキンゼーで知った一流に見せる仕事術』(大和書房)ほか。
<文/内埜さくら>
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