IT関連には無知だった杉田さんは、その言葉を信じてすっかりおびえてしまっていたのです。決して大きくはない会社でそういった類の業務を一手に引き受けていたのはただ一人だけ。吉村さんの彼氏である中野さんでした。
必ず解決するから相手の名前を教えてというと、ようやく彼女も口を割り、中野さんの仕業であることを明かしたのです。
「信じたくはなかったです。大人しいけど真面目な人で、そんなことをするようにはとても思えなかった。でも、彼を『杉田さんにメッセを送ったりしてるでしょ』と問い詰めたら『彼女のこと好きになっちゃったんだ。ずっと言い出せなくてごめん。別れよう』って言われたんですよ。
もし、杉田さんから話を聞いてなかったら仕方ないかとすぐに別れたかもしれませんが、彼女が嫌がってるし会社的にも問題だと思ったので、別れをそこでは承諾せずにしばらくの間、彼を見張りながら対処していこうと決めました」
しかし、杉田さんは別の社員にも相談をしていたのです。その社員は杉田さんにメッセンジャーの画面をスマホで撮影することをアドバイスし、それが証拠となって中野さんの行動が彼の上司や社長も知るところとなりました。

「面談というか、彼の方の意見も一応聞いてくれたみたいです。でもその時に彼が自分のやったことを否認して『オレは吉村さんと結婚を前提に付き合っているから、杉田さんに恋愛感情なんてなかった』って言っちゃったんです。
で、杉田さんにも『中野はこう言ってるけど』って報告があったらしくて……杉田さんがスピーカーになってその日のうちに彼と私の関係が社内全員にバレてしまいました」
杉田さんからは「付き合ってたなら、なんで早く対処してくれなかったんですか。彼氏だから庇(かば)ったんですか?!」と猛抗議されたそう。そのため、周囲からは『ストーカー男と付き合ってた上に、彼の罪を隠そうとした女』と思われ、吉村さんは中野さんとともに非難を浴びることとなってしまいました。
「あの時、杉田さんに悪いと思いながらも自分の中で整理がつかなくて、動きがにぶったことは事実です。でも、中野さんと付き合っていたことで同罪とされてしまったのは、本音を言えばやっぱりちょっと納得いかないかな~。彼の女としてではなく、それなりに長いこと一緒に働いていた私のことをもっと信じてもらいたかったですね」
ほどなくして吉村さんは10年以上勤めたその会社を退職したそう。もう二度と社内恋愛はしないと心に決めているそうです。
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恋愛・結婚“私の失敗”―
<文/もちづき千代子 イラスト/ただりえこ>
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フリーライター。日大芸術学部放送学科卒業後、映像エディター・メーカー広報・WEBサイト編集長を経て、2015年よりフリーライターとして活動を開始。インコと白子と酎ハイをこよなく愛している。Twitter:
@kyan__tama