
女子高生から結婚をせがまれる古本屋の店主をなんとも軽やかに演じた『愛なのに』(2022)も素晴らしい文学系男子だけれど、筆者が最初に瀬戸を認識したのは、塩田明彦監督作『昼も夜も』(2014年)で、中古車店を経営する何ともぶっきらぼうな態度を貫く主人公の良介(なんと同じ役名!)だった。同作の瀬戸は、徹底的に無表情を貫く。それなのに、透明感のある演技が、さまざまな表情の豊かさを感じさせる不思議な印象があった。
両腕を左右に大きく広げながら自転車をこぐ姿など、どの場面のどのショットを見ても、生々しい演技が浮き出してくるような存在感。あんなに可愛い顔をして、こんなリアルで凄みのある演技ができる若手俳優がいたのかと、素直に驚いたものだ。
それでいて、『グレーテルのかまど』(2011年~、Eテレ)では、お菓子作りに励む素の状態の瀬戸がいて、お茶の間を癒やし続けている。それが矛盾していないのが凄い。『~スタンダールの小説論~』で言えば、メルヘンな妄想の中のマリウスと現実の涼介のふたつの顔が絶妙なバランスを取り合いながら、瀬戸は、ラブコメの世界観を安定させるように共存させる名演を見せている。

本作には涼介の他、もうひとりの小説家が登場する。聡子がイマジナリーフレンド的に生み出したスタンダール(小日向文世)もまた、涼介より遥か昔19世紀を生きた偉大な小説家だ。涼介と結ばれるために恋の手ほどきメンター役を買って出て、いちいちアドバイスするのだけれど、スタンダール自身、恋に悩み、愛に生きた作家だった。フランス文学史上の傑作『赤と黒』を著した偉人の等身大の姿が、現代版スタンダールとして涼介に投影されているように思う。
本作の関連で解釈すれば、同じく19世紀フランス文学の代表作である『レ・ミゼラブル』のマリウスは、スタンダールの若き日の恋わずらいと読み込むこともできる。それがいつしか酸いも甘いも知る老齢の作家となる。その意味で、瀬戸がこのまま文学系男子路線を行ってくれると、年相応の魅力を持ちながらスタンダールやユーゴーのような文豪役を演じてもサマになるはず。
というか、レ・ミゼのミュージカルでぜひマリウス役を演じてほしい。アン・ハサウェイがアカデミー賞助演女優賞を受賞した映画版(2012年)では、「ファンタスティック・ビースト」シリーズで有名なエディ・レッドメインがマリウスを好演していたけれど、きっと瀬戸ならもっと美しく、誠実なマリウス像を体現できるんじゃないだろうか!?
聡子の妄想を超えて、現実の瀬戸が、折り紙付きの演技力で、マリウスや偉大な文豪たちを演じる日が待ち遠しくなってくるのだけれど、どうだろう?
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<文/加賀谷健>
加賀谷健
コラムニスト / アジア映画配給・宣伝プロデューサー / クラシック音楽監修「イケメン研究」をテーマにコラムを多数執筆。 CMや映画のクラシック音楽監修、 ドラマ脚本のプロットライター他、2025年からアジア映画配給と宣伝プロデュース。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業 X:
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