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『クレヨンしんちゃん』新作映画の「グロさ」が怖い。10年前の“弱者”が今は“勝ち組”という地獄

「家庭内に居場所がない」と嘆く既婚男性たち

 ちなみに、2014年に上映された『クレヨンしんちゃん ガチンコ!逆襲のロボとーちゃん』(以下、『ロボとーちゃん』)でも“弱者男性”は敵役として登場している。
『映画 クレヨンしんちゃん ガチンコ!逆襲のロボとーちゃん 』

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『ロボとーちゃん』の黒幕・黒岩仁太郎(くろいわじんたろう/声:遊佐浩二)は、警察庁署長として懸命に働くも、家族から誕生日を忘れられたり、娘からは邪険に扱われたりなど、家庭内では肩身の狭い思いをしている。そのため、父親の尊厳が失われた現状を嘆き、“父ゆれ同盟”を結成。黒岩同様、家庭内に居場所がない父親もその主張に共感して、どんどん父ゆれ同盟の勢力を拡大した。

10年の間に下方修正された“弱者男性”の定義

“弱者男性”の定義は明確化されていない。しかし、当時この言葉があれば、黒岩をはじめ父ゆれ同盟に参加する男性たちは、そのようにカテゴライズされていたかもしれない。つまりは“弱者男性の逆襲”という点では『しん次元』と『ロボとーちゃん』は同じである。しかし、『ロボとーちゃん』に出てくる弱者男性らは基本的に結婚しており、子供がいる。  一方、『しん次元』に出てくる弱者男性、つまり非理谷には配偶者はおろか恋人も友達もいない。“結婚することが幸せなのか”という是非は置いておいて、黒岩と非理谷が置かれている状況とは雲泥の差。『ロボとーちゃん』の公開から約10年経って、弱者男性は家庭内で居場所がない惨(みじ)めな既婚男性から、周囲に見下されて安定した職に就いていない孤独な未婚男性に下方修正された。  非理谷に言わせれば黒岩も父ゆれ同盟の面々の悩みも贅沢でしかなく、今『ロボとーちゃん』が上映された場合、“勝ち組の惚気(のろけ)”といった感想を抱く観客が多くなるのかもしれない。『しん次元』と過去作品を比較すると、いかに日本が衰退しているのかを感じざるを得ない。ある意味とても意義深い映画と言える。 <文/望月悠木>
望月悠木
フリーライター。主に政治経済、社会問題に関する記事の執筆を手がける。今、知るべき情報を多くの人に届けるため、日々活動を続けている。Twitter:@mochizukiyuuki
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