『クレヨンしんちゃん』新作映画の「グロさ」が怖い。10年前の“弱者”が今は“勝ち組”という地獄
8月4日から上映中の『クレヨンしんちゃん』シリーズ新作映画、『しん次元!クレヨンしんちゃんTHE MOVIE 超能力大決戦 ~とべとべ手巻き寿司~』(以下、『しん次元』)。物議を呼んでいる本作ではあるが、過去の『クレヨンしんちゃん』シリーズの映画と比較するとさらに味わい深いものになる。
※この記事には『しん次元』、および過去2作品の結末についてのネタバレがあります。
まず『しん次元』の簡単なストーリーから。白い光と暗黒の光がしんのすけたちの暮らすかすかべ市に降下して、白い光はしんのすけに、暗黒の光は本作の敵役にあたる非理谷充(ひりやみつる/声:松坂桃李)に命中する。非理谷は30歳、非正規労働者、友達や恋人もいない“弱者男性”。唯一の心の拠り所だった推しているアイドルが突如の結婚報告をしたのを受け、失意のどん底にいた。
『しん次元』のハイライトはラストに野原一家が非理谷に“寄り添う”ところにある。正気を取り戻したものの、これからどう生きていくべきか不安を抱える非理谷。ただ、ひろしは「この国の未来はたしかに明るくないかもしれないけど、それでも生きていかなきゃいけない」と“エール”を送る。
非理谷も「でもどうやって頑張ればいいのか」と疑問を口にするが、それには「誰かを幸せにすれば、自分も幸せになれる」「だからな、頑張れ」と“道”を示す。そして、ひろしの「頑張れ」を皮切りにみさえもしんのすけも「頑張れ」と背中を押してエンディングとなった。
今回の敵役は、友達や恋人もいない30歳“弱者男性”
そんな折、暗黒の力を手に入れた非理谷は、社会に対して仕返しをするべく、その能力を悪用する。後半では非理谷は自分自身の能力を制御できなくなってしまうが、野原一家の絆によって、非理谷だけでなく世界を救う、というもの。
野原家からの「頑張れ」はなかなかのグロさ
ラストの「頑張れ」「頑張れ」の大合唱に若干どころではない怖さを感じたが、特筆すべきは何の解決策も示していないのにハッピーな雰囲気でエンディングを向かえたことでも、「非理谷はこれまで頑張っていなかった」と野原家が悪意なく決めつけていることでもない。マイホーム、マイカーを持つ正社員、二児の父親のひろしが、それらを一切持たない非理谷を「頑張れ」と応援している様子はなかなかのグロさである。なにより、「でもどうやって頑張ればいいのか」と漏らした時にも「頑張れ」と言って、一切の甘えを許さない残忍ささえ感じた。