『しん次元』ではひろしの言葉は鋭利な刃物のようだったが、2001年に上映された『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲』(以下、『オトナ帝国』)内でのひろしの言葉は大きな感動を呼んだ。

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『オトナ帝国』では、現代の日本を憂いているケンが“イエスタデイ・ワンスモア”という組織を作り、昔のような夢や希望にあふれた時代を取り戻すべく、大人たちを次々と洗脳していく。しかし、かすかべ防衛隊や野原家の活躍によってケンの計画は阻止された。
ケンと対峙する時、ひろしは「
俺の人生はつまらなくなんかない。家族がいる幸せを、あんたたちにもわけてあげたいくらいだぜ」と口にしている。“中流家庭のそこら辺にいる大した特徴もない二児の父親”でも、家族と一緒に過ごしている現在、そして家族とこれから一緒に過ごしていく“そんなありふれた未来”がいかに幸せで楽しみなのかを訴える名シーンだ。ケンからすれば“モブキャラ”でしかないひろしの心の叫びは、ケンだけではなく多くの視聴者の心を打った。
しかし、
時は変わって『しん次元』では、ひろしの言葉は上から目線に感じられるようになった。ひろしの基本設定は大きく変化していないにもかかわらず。今もし『オトナ帝国』が上映された場合、ひろしの言葉は当時のようには受け取られないのではないか。それと同時に、かつての“平凡なサラリーマン”が勝ち組になった現代社会、いかに日本が低迷してしまったのか、そんな恐怖感も覚えた。