深愛は父親から殴られて育った。殴られるのは自分が不出来だから、自分が悪いからだと思っていた。父が病死したときは悲しかった。だが一方で、もう殴られなくてすむと安心もした。
深愛は「自分はひどい人間だ」と断罪する。
世の中、親が死んで歓喜する人間など、いくらでもいるし、それが「ひどいこと」とは限らない。だが深愛は、親にされたことと自分の思いをきちんと天秤にかけて客観視するようなことはしない。すべて自分が悪いと思い込む。だから
心の中で、彼女も気づかない自己愛だけが育っていった。

それには母親の影響もある。母の美幸(筒井真理子)は、父の死後も深愛に対して支配的だ。
娘とふたりで夫の墓参りをしたあと、「私はここに入りたくない」とつぶやく。娘に結婚してほしいと思いながらも、自分がひとりきりになるのを恐れている。娘が結婚するなら、自分が同居するのは当然だという圧力を常にかけ続けている。母もまた、典型的な自己愛の塊を抱え込んでいる。
好きな男の子に「レイプされそうになった」と噂を流す少女
一方、深愛を慕う高校生のハルキ(櫻井海音)は、クラスで浮いているため不登校がちになっている。幼なじみで彼に一方的な感情を寄せる同級生のちふゆ(原菜乃華)が、ハルキに襲われたと嘘を垂れ流し、ハルキの母親が精神的に不安定になっていることも広めたからだ。

このちふゆが、またヤバい女なのだ。
彼女の目的は、ハルキを孤立させること。そうすれば彼の気持ちが自分に向くと思い込んでいる。ハルキが激怒する顔を見ながら、ちふゆはおそらく「自分のために必死になっている彼が愛しい」と感じ、うっとりとさえしているのだからタチが悪い。