西野カナは、実は“世界レベル”のことをやっている
ややもすると忘れがちになるのですが、世の中には熱心なリスナーばかりがいるわけではありません。大半は、「音楽は嫌いじゃないよ」ぐらいのスタンスなのではないでしょうか。もちろん、それが悪いわけではなく、限られた余暇をめぐって多くの娯楽がパイを奪い合う時代では、ごく自然な傾向でしょう。
そう考えると、西野カナの曲は決して趣味の良いマニアを引きつけるものではありません。けれども、歌い方、楽曲の成り立ち、サウンド等々を聴いていくと、洋楽のトップアーティストと遜色ないことが分かる。特別音楽に詳しくなくても、積極的に参加していいんだと思わせる親しみが共通しているのですね。
ニューシングル「あなたの好きなところ」(4月27日発売)でも同様(作詞:西野カナ、作曲:Carlos K.・Yo-Hey)。
まず気付くのは、歌の聞き取りやすさ。最初から同時進行で詞の文字起こしができそうなほど、クリアなのですね。
たとえば、<くしゃっと笑う目尻>の“くしゃっと”など、音符の代わりにひらがなのまま採譜したくなるほど。
⇒【YouTube】西野カナ 『あなたの好きなところ』MV(Short Ver.) http://youtu.be/u-o2s2GSl0c
こうした明快さを際立たせるクセのないボーカルは当然ながら、注目すべきはメロディ。歌詞を構成する語の音節の数に沿って作られているのですね。言葉が音楽の都合で潰されないよう、注意が払われているのです。
この安心感は、ケイティ・ペリーの「Roar」にもあったもの。アクセントや音節と文の強弱に、メロディラインの上下動を一致させていく。そこに、ゴシック体を刻み込むように発音するボーカルが加わると、思わず一緒に歌ってしまう曲になる。音楽におけるユニバーサルデザインとでも言ったらいいでしょうか。
西野カナも同じことを日本語でしているのですね。
⇒【YouTube】Katy Perry – Roar (Lyric Video) http://youtu.be/e9SeJIgWRPk
しかし、ただ親しみやすいだけでは、すーっと流れて行ってしまいます。現代のポップスには、どこか人をムカっとさせる部分が必要なのです。“フック”と呼ばれるパートですね。「あなたの好きなところ」では、以下の部分。
<友達想いなとこ トマトが嫌いなとこ>
<忘れ物したんでしょ 傘もなくしたんでしょ>
この三連をロボットのように正確に歌うことで、“好きなところ”なのに事務的に読み上げるような冷やかさが生まれる。“キャロル・キングの「ロコモーション」っぽいね”で終わってしまいそうなサビにリズムの揺らぎができるだけでなく、聴き手に「ん?」と立ち止まらせる仕掛けにもなっている。
スムーズな流れを、あえて分断させるイジワルな三連なのです。
「音楽好き」を越えた西野カナ人気の理由は
音楽のユニバーサルデザイン
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