とはいえ、男性の意識改革ばかりを求めていても仕方ありません。年を重ねていくほど、身ぎれいにしていることが大切になってきます。でも、若いころみたいなカワイイ格好をするわけにもいかず、結局めんどくさくなってしまう…。
投げやりになりそうになったら、漫画家の
槇村さとる(61)のこの言葉を思い出しましょう。
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ファッションって、よその人から見たら風景の一部じゃないですか。それが異様なことになっているのはまずいぞっていうのは、ありますよね。>(p.191)

つまり、大人のオシャレとは自分ではなく他人のためにするってこと。不快感を与えず、街並みになじむ格好でありながら、同時にその服を着る自分が何者であるかをスタイルによって理解してもらう。好きなものを好きなように着ればいいわけではないし、逆に“どうせ50歳なんだから誰も見やしない”と適当になるのも社会性を放棄したのと同じになってしまう。
これはアメリカのソングライター、ライル・ラヴェット(60)が言っていたことに通じます。
<私達人間が物分かりがよく、中立公正で偏見など持たない存在だと考えること、それはまったくの幻想なんだ。人はどうしたって判断を下す生き物なんだよ。>(『esquire』電子版 How I Dress Now:Lyle Lovett 筆者訳)
これは男性も肝に銘じておきたい話ですよね。
最後は、人生の折り返しを迎えてそれまで以上に存在感を増す死との付き合い方。元キャンディーズの
伊藤蘭(62)とのやり取りが印象的でした。グループでいっしょだった田中好子(享年55)が亡くなってから、生の一部である死を嫌いたくないという気持ちになったと語った伊藤さん。
姉の“ヨーコさん”を亡くした小泉さんはその話に共感して、自分も日常生活が変わったと語るのです。
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でも今、姉の仏壇に毎朝、お線香をあげるんですが、その時間がけっこう好きなんですよね。(中略)
お水を替えて、お線香をあげて、チーンと鳴らして拝んで「行ってきます」って。ひとり暮らしの生活にそういうルールがあるのって、悪くないなと。>(p.289-290)
小泉今日子のなんとも言えない落ち着きって、こういうところにあるのかもしれませんね。仕事や遊びから離れた静かな時間を残してある。小手先で生きていない雰囲気に安心するのでしょう。
というわけで、この『小泉放談』。大人の女性に限らず、老若男女の気持ちがふっと晴れやかになる名言が他にもたくさん収録されています。年末年始の読書におすすめですよ。
<TEXT/比嘉静六>