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不妊クリニックが言わない「顕微授精」のリスク

「妊活」に関する素朴な疑問を、産婦人科医の黒田優佳子先生に聞くシリーズ3回目です。黒田先生は『本当は怖い不妊治療』(SB新書)の監修者で、臨床精子学研究の第一人者でもあります。  前回は、不妊治療に用いられる技術「生殖補助医療」に①人工授精 ②体外受精 ③顕微授精の3つの手技があることを紹介しました。今回は、現在の生殖補助医療の8割を占めている「顕微授精」について解説します。 妊婦 顕微授精は、体外に取り出した卵子に、人為的に極細のガラス針で一匹の精子を穿刺(せんし)注入して授精させる手技ですが、どのような精子を注入しているのでしょうか?  また「穿刺(せんし)」とは、体外から血管、体腔、内臓に針を刺すこと。よく不妊治療のニュースの映像や写真で見るように、顕微授精では卵子に針を刺すことになります。穴が開いても大丈夫なのでしょうか?

精子の異常を発見できないクリニックも多い

Q:多くの不妊治療クリニックで、「精子の状態がよくない」ということで、すぐに顕微授精を勧められるご夫婦が多いとのことですね。顕微授精は本当に安心して受けてもいいのでしょうか? 黒田先生(以下、敬称略):実は、顕微授精は精子の状態が悪い方には不向きな治療であることも事実なのです。現行と逆のことを申し上げましたが、この点を理解していただくために、「顕微授精のメリットとリスク」を説明します。  実験動物の精子においては、泳いでいる「運動精子=良好な精子」と考えていただいて差し支えありません。一方ヒトでは、元気に泳いでいる精子であっても様々な機能の異常を持つ不良な精子である場合が多いので、単純に運動精子が良好な精子という訳にはいきません。  しかも その異常の多くは、一般的な不妊施設が持っている顕微鏡では、確認できない場合が多々あります。それにもかかわらず治療の現場では、「運動精子=良好な精子」であると信じ切って、顕微鏡下に運動精子を一匹選択して、卵子に注入しているのです。つまり、不良で異常な精子が顕微授精に用いられている可能性を否定できません。  見栄えの良い元気そうな精子でも、顕微鏡で見えない機能の異常が潜んでいる可能性も多々あります。ですから、現状の精子選択の基準は不適切で、何らかの異常のある精子を穿刺注入している可能性もある。そこにリスクが無いという保証はありません。 顕微授精黒田:顕微授精が不妊治療の現場に登場した当初は、必要な精子が一匹でよいことから、極端に精子の状態が悪い方を対象とする手技として導入されました。ところが現実には、高い受精率を得られる手技であることから、精子の状態の良い方にも用いられるようになり、顕微授精の適応が安易に拡大しました。その結果、現在では不妊患者の80%に適用されるまでになっています。多くの不妊治療施設が報告する高い妊娠率には この方々が大きく貢献しています。  今後、顕微授精による妊娠率を精子の機能の異常別に厳密な統計を取ってまとめると、「機能の異常精子」の比率が高い方の妊娠率は極めて低いことが明確になります。これは、「顕微授精は精子の状態が悪い方には不向きだ」ということを意味しています。冒頭でも申し上げたとおりです。  また一方で、顕微授精で生まれてくる子どもは当然健常であると説明されてきましたが、リスクがない医療介入は存在しません。顕微授精だけが例外ではありません。実際のところ、欧米では、顕微授精で生まれた子どもには先天異常が多いことを述べた論文が多数報告されています。  大事なことは、「精子にどのような異常がある時は妊娠しないのか」、もしくは「妊娠しても生まれた子どもに異常が出るのか」、ということを明確にすることです。この点は、現状ではほとんどわかっていません。今後は。「精子の機能異常別の妊娠率」を厳密に出すことが、たいへん重要であると申し上げたいのです。
黒田優佳子先生

不妊治療専門施設の黒田インターナショナル メディカル リプロダクション(東京都中央区)院長の黒田優佳子先生

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