
「青い鳥」(画像:TBSチャンネル公式サイトより)
愛称「トヨエツ」はこの頃から呼ばれ始めたものですが、美をさらに極めたのが、野沢尚脚本『青い鳥』で、人妻とその娘と愛の逃避行を演じた駅員役です。
物静かで実直な駅員さんの白いYシャツ姿は眩(まぶ)しく、自然と児童文学を愛するナイーブな青年ぶりは、まるで文学の中から抜け出してきたような詩的な美しさを放っていました。
おそらく彼の美しさを語るとき、多くの人がこの2作を出しては「昔、すごく美しかった」「カッコよかった」と言うでしょう。
しかし、それは彼にとってのあくまで第一章。何やらおかしいぞ、と思わせてくれたのは、映画『妖怪大戦争』で演じた加藤保憲でした。
『妖怪大戦争』や『20世紀少年』で強烈な個性を打ち出す第二章
『帝都物語』で嶋田久作が演じた加藤とはイメージが大きく異なり、豊川はスマートで強く恐ろしく、セクシーな加藤でした。しかし、だからこそ大事な場面での間抜けさ、哀愁が際立つ「新しい加藤」でした。

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さらに、映画『20世紀少年』でのロン毛・ひげ面・ワイルドなオッチョ役や、『娚の一生』の哲学教授、『後妻業の女』の結婚相談所所長役など、個性的な役柄を次々にこなしていきます。
脆(あやう)く儚い美しさを手放すかわりに、強烈な個性を打ち出すようになったのは、言ってみれば第二章。
そして、近年は第三章とも言うべき「奇人」ぶりを披露してくれています。
例えば、花王アタックNeoのCMで「洗濯槽にいるスーツ姿の悪臭菌」を演じたのは衝撃でした。「敵」として、苦悩の表情を見せるコミカルな芝居には、笑い、唸(うな)らされた人も多かったことでしょう。

(画像:花王株式会社プレスリリースより)
さらに、そうした滑稽さ、悲しさを大きな魅力としたのは、NHK連続テレビ小説『半分、青い。』で演じた、ロン毛にサングラスという怪しげないでたちの、「偏屈な天才漫画家」秋風羽織先生です。

秋風羽織 , 北川悦吏子「秋風羽織の教え 人生は半分、青い。」マガジンハウス
一見して天才と確信させる異様なオーラと、偏屈さ、気まぐれさ、渋さを持つ一方で、子どものような純粋さを持ち合わせる秋風先生は、賛否を巻き起こした同作の中で最も多くの人に愛されたキャラでした。
『愛していると言ってくれ』で繊細な美しい青年画家を演じた彼が、時を経て、同じ北川悦吏子脚本のもとで、キュートな天才・変人を演じたのは、ある種の感慨すらありました。
ナイーブな美青年から、個性派、そして、奇人・スパイスまで。その奥行きを作っているのは、おそらく彼のルーツである渡辺えり主宰の『劇団3○○』で培(つちか)った土台でしょう。
さらに、ブレイク前、デビュー当初には刑事ドラマの泥棒や殺人犯、ヒットマンなど、悪役ばかりを演じてきたキャリアや、多数のナレーションをこなしてきたことも、すべて血となり、肉となっているはず。
ちなみに、ロン毛+サングラスの偏屈漫画家を演じも、悪臭菌を演じてすらも、美青年役変わらず「気品」がどこか感じられるのは、トヨエツならでは。
近年はそんなテクニカルで変則的な気品を楽しむ機会が増えていただけに、今回の『愛していると言ってくれ 2020年特別版』でストレートな美青年ぶりに久しぶりに再会できるのは、大いに楽しみです。
<文/田幸和歌子>
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