――額に装着し、顔全体を透明フィルムで覆う「フェイスシールド」や、「フェイスガード付きの帽子」などもありますが、これらについてはどうですか?
細部:まったく必要ありません。初めてワクチンを受けに来る生後2か月くらいの赤ちゃんでも、フェイスシールドやフェイスガード付きの帽子をつけてくる子がいるそうですが、とても危険だと思います。
マスクと同様に熱中症のリスクもありますし、NICU(新生児集中治療室)などで働いた経験のある先生たちは、新生児・乳児への使用は「非常に危険である」と断言しています。
――どのように危険なのでしょうか?
細部:新生児室の赤ちゃんたちにフェイスシールドを着けている病院もあるようですが、コロナ予防に有効だというエビデンスなどどこにもありません。
ただでさえ、乳幼児突然死症候群の原因は解明されていないなかで、呼吸器が未熟な新生児・乳児に対し、フェイスシールドの内側の酸素濃度が薄くなるような状態を引き起こすことは、命を危険にさらすことにもなりかねません。
――ベビーカーの雨よけカバーをコロナ予防に使用している親御さんもいるようです。
細部:これも必要ありません。これからの季節、蒸し風呂状態になってしまい非常に危険です。ビニールカバーとはいえ隙間などから空気は常に入れ替わっているので、ウイルスも容易に侵入しますし、メリットは一つもないといえるでしょう。
――保育園や幼稚園ではマスクについてどのような対応をしているのでしょうか?
細部:文部科学省は学校に対して「基本的には常時着用(体育の時間など健康被害が発生する可能性が高い場合を除く)」という内容のマニュアルを出していますが、保育園や幼稚園では保護者の判断に委ねられています。
ただ、保育園等でも先生や園児がマスクを着けているところが増えています。他の子どもがマスクをつけているのを見たら「明日から自分の子もつけさせなければ」と思うでしょうし、先生たちも「お母さんたちの手前…」と、ある種の“同調圧力”が生じているようです。
――マスクを着けた大人が子どもたちの世話をする場面も増えてきているのですね。
細部:はい、それも私たち小児科医が心配しているところです。子どもたちにとって、親御さんなどお世話をしてくれる人との微笑みの交換は愛着形成の素、つまり“心の栄養”となりとても重要です。人間関係の基礎を形成する大切な時期はせいぜい2歳頃までと言われています。マスクが当たり前となった世の中で、その時期を過ごした子どもたちの発達に今後影響が出てくるのではないかと危惧しています。
自宅では、子どもも大人もマスクは不要です。コミュニケーション能力を高めるためにもマスクを外してお子さんとおしゃべりする時間をできるだけ作ってもらいたいです。
――このご時世、屋外でマスクを外す時間を作ることは難しいですよね……。
細部:そうですね。屋外でも、人混みでなければマスクは不要なのですが、今は世間の目がありますので、しないわけにはいきません。都会でも未就学児はマスクをしなくても良い世の中になることを願っています。
――最後に、小さな子どもをもつ親にメッセージをお願いします。
細部:ベビー用のマスクやフェイスシールドなど、実際に商品として売られているものも多いですが、親御さんたちには正しい情報を見極めて、賢い消費者になってもらいたいです。
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この不安な状況で「子どもに何かしてあげたい」という気持ちはよくわかります。ただ、日本小児科医会が「危険」という強い言葉をつかって警鐘を鳴らした、そのことを重く受け止めてほしいです。子どもの病気や育児についての疑問はネットで検索するのではなく、ぜひかかりつけ医などの専門家に相談してください。
<取材・文/鴨居理子>