アメリカのヒットドラマに多数出演し、人気俳優として地位を確立した韓国系アメリカ人のダニエル・デイ・キム。米国で育ち、米国籍も持つダニエルだが、ドラマで役を演じるときには、アジア系俳優ならではの苦労も経験しているようだ。 　韓国で生まれ、幼い頃に米へ移住したダニエル。米東部ペンシルベニア州で育ち、地元の大学で演劇を学んだ。 　1990年代初めからテレビドラマに出演し、『ビバリーヒルズ青春白書』『アリー my Love』『ER緊急救命室』などの話題作にも登場。2004年から放送開始されたドラマシリーズ『LOST』（ロスト）でメインキャラクターのジンスー・クォン役を演じた。旅客機が墜落し、無人島に残された生存者48人のサバイバルを描いた『LOST』は高い評価を受け、エミー賞、ゴールデングローブ賞を始め各賞を受賞。社会現象にもなった本作に出演したことをきっかけに、ダニエルも一躍スターになった。 　ただこの作品で役を演じるにあたっては、葛藤もあったようだ。 「僕の一番の恐れは、パイロット版だけが放送されて、本編が放送されないことだった。パイロット版だけを見ると、僕のキャラクターはただのステレオタイプにしか見えないからね」 　放送開始に先行して試験的に製作されるパイロット版で、自身が演じるキャラクターが、あまりにもステレオタイプに描かれていたことに懸念を抱いたというダニエル。 　というのも『LOST』のパイロット版では、ダニエル演じるキャラクターが「支配的な夫」、その妻が「支配的な夫に従う妻」として描かれていたから。ダニエルは、その「威圧的な夫に従順な妻」という関係性が、アジア人の固定イメージに基づいたものであるとして憂慮。『LOST』で製作・監督・脚本を務めた大物クリエイターのJ・J・エイブラムスらに変更を求めたのだという。ダニエルはこう振り返る。 「撮影時、J・J・エイブラムスらと話し合いの場を持ち、『このキャラクターをこんなふうに描き続けるべきじゃない』って伝えたんだ。すると『僕らを信じてくれ』と言われた。だから信じることにしたんだ。そうしたら、最高の展開となったわけだ」 　当初は懸念を抱きつつ、現場でポジティブな変化をもたらしたいと考えていたというダニエル。その目的は果たせたようで、「このドラマの最後には、ステレオタイプとは言えないようなキャラクターへとなっていたと思う」と語っている。 　ダニエルはまた、『LOST』での韓国語でのセリフや発音が、韓国人が聞いてもおかしくないようにするよう心がけていたという。 「セリフは英語で書かれたものが韓国語になっていたから、それを韓国語がわかるスタッフのところに持って行って、その人と一緒に韓国語にしていた。そして、それを韓国語で覚えたんだ」 「だから、まず翻訳をして、韓国語での表現や発音を考え、それからキャラクター像に戻って、アメリカ人としてではなく、韓国人としての表現方法を考えた。僕はアメリカ人だから、その作業をしていなかったら、番組を見るほとんどの韓国人に不自然に映っていただろう」 　ダニエルはそれにより、『LOST』がアジア人に対する前向きなイメージをもたらしたことは間違いないだろうと続けた。 　最近では、ダニエルのように米エンタメ界で活躍するアジア系俳優も多いものの、成功するまでには多くの苦労も経験しているようだ。 　人気ドラマ『ウォーキング・デッド』で大ブレイクした韓国系俳優スティーヴン・ユァンもその一人で、ただアジア系であるというだけで先入観を持たれてしまうこともあったようだ。

この投稿をInstagramで見る

Steven Yeun(@steveyeun)がシェアした投稿

　なかでも屈辱的だったのが、初めて受けたショーのオーディションで「アジア系のアクセントで話すよう」求められたことだったと明かしている。小さい頃から米国で育っているスティーヴンにとって、英語は母国語。けれども、単にアジア系であるというだけで、わざとらしい“アジアなまりの英語”を話すことを求められたことが、耐えられなかったのだという。ちなみに、そのオーデイションには合格したものの、結局オファーは拒否したそうだ。 　このようにキャリア当初から苦いスタートを切ったスティーヴン。しかし、その後は実力派俳優として頭角を現し、今注目されている韓国系移民一家を描いた映画「ミナリ」にも出演、アジア系アメリカ人として初めて米アカデミー主演男優賞にノミネートされている。 　 ＜文／BANG SHOWBIZ、女子SPA！編集部＞