一夜の過ちがあった日の週末、小夜子さんは結婚式を挙げ、関西国際空港からハネムーンへと旅立ちます。

小夜子さんはあの夜の過ちに嫌な予感がしたため、初夜にはピルを服用して臨みました。その後、予感は的中し小夜子さんは第一子を妊娠し今日に至るのです。
「
妊娠が分かった時は、ああ、やっぱりそっか、と妙に冷静な気持ちでした。中絶をして全てを無かったことにしようかと考えたこともありますが、生まれてくる命には罪はありませんから……」
小夜子さんは伏し目がちに言います。もっとも、
ピルは多くの場合、飲んだ当日から避妊効果があるわけではないので、
夫の子かもしれません。でも、小夜子さんは、義弟の子だとなぜか確信しているようなのです。
そして、夫に打ち明けるつもりもなかったといいます。
「その時、既に何度も浮気で泣かされていましたから、復讐の気持ちもあったのかもしれません。私さえ黙っていれば、このことは誰にもバレませんからね」
小夜子さんがお腹にいる赤ちゃんを産みたいと思ったのは、夫の実弟が不慮の事故で亡くなったことも大きいようです。ちょうど彼が亡くなった時期が、中絶が可能な週が目前に迫っていた時だったのです。

「彼の棺の前で手を合わせたとき、私はこの子を産むことを決心しました。そして、夫にもこのことは言わないということも……」
赤ちゃんを出産した時のことは今でも覚えているそうです。
「主人に似ているけれど、紛れもなく弟の子どもであると、私だけには分かりました。もしかしたら多くの人にとっては理解すらできないかもしれませんが、私にとっては人生最高の瞬間でした。だって、主人の亡くなった弟を手に入れることができたわけですから。主人は何があっても私から離れることはできません」