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彼はなぜ人の頭に花を生け始めたのか?5万人を発芽させた「花人間」作者の野望

木に話しかける老人との出会い

──かつては、モヒカン頭でスタッズの革ジャンを着たパンクロッカーで、自然とは無縁な生活だったと聞いています。 清野:チェ・ゲバラなどの革命家に憧れていました(笑)。でも、音楽で不都合な社会を訴えても、誰も笑顔にならない。自分の心が追いつかず、そのまま引きこもりに。部屋で電信柱を作る生活を1年ほど送っていました。コンクリートを捏ね回しながら、最初は直接手で固めようとして手の皮が剝がれ、2回目は筒型に流し込んでと……。 ──えっ! ある意味アグレッシブな引きこもりですね(笑)。 清野:ふと、「感謝せずに電信柱の恩恵を受けるのはおかしい」と思ってしまったんです。ヤバいですよね(笑)。で、人生を迷走している最中に東日本大震災が起きた。23歳のころです。連日、被害の甚大さが報道される一方で、「自然はなぜ猛威を振るうのか」など、“自然そのものを語らない”ことに違和感を覚えました。それで、自然や地球に関して独学で勉強し始めたら「自然を愛でない限り、人間の未来は危ういのではないか」との危機感が芽生えたんです。 エッジな人々 清野光/フラワーアーティスト──震災の年には、単身カナダに渡っていますよね。 清野:震災から数週間たったころかな。朝方に公園を散歩していたら、一本の木に「大きいなって」と話しかけている白髪交じりの老人を見かけたんです。最初は「頭、ヤバ!」とバカにしていたんですが、次第に「社会的に成功するより、自然に対して純粋に感動できる人生のほうが幸せなんじゃないか」という感情が湧き上がってきました。自然との共生の大切を伝えたい。「大自然」というイメージを頼りに全財産の数万円を握りしめてカナダへ飛び立ちました。 ──カナダでは、ファッションショーのプロデューサーのアシスタントを務めていたとか。 清野:はい。渓谷で有名なリンキャニオンという街の路上で太鼓を叩いていたら、女性から声をかけられたんです。「寝る場所は階段の下で家賃はタダ。代わりにプロデューサーの仕事を手伝う」という条件つきでしたが、その日暮らしだったので、二つ返事で引き受けました。彼女はショーの空間づくりで装花を活用することが多く、次第に「身近にある花なら人間と自然の関係を深める場を提供できる」と思い、花屋でも働き始めました。ダブルワークです。1年ほど経験を積んで帰国。地元の札幌に花屋を開業しました。

誰と争うことなく、花の美しさと力を静かに伝え続けたい

──これまで世界中で5万人以上の一般人が、「花人間」として“発芽”の体験をしています。 清野:花の名前を一つでも覚えてもらいたくて、’14年から始めた「HANANINGEN(花人間)」プロジェクトをきっかけに、活動の幅が広がりました。昨年3月には横浜ガーデンネックレスで、廃棄予定の花“ロスフラワー”を使ってフラワーアトリウムを展示したりもしています。 エッジな人々 清野光/フラワーアーティスト──‘27年には横浜市で国際園芸博覧会が開催されますね。 清野:日本の美しい草花を世界に発信できる機会なので、サスティナブルを意識しつつ、多くの人の目を奪う作品を制作したいですね。また、これまでは多くの人を惹きつけるために、知識を総動員して時代に求められているデザインやセンスを優先して作品をつくってきました。意外と自我を殺してきたので、これからは革命家のように“パッション”を出発点に、芸術に不可欠なメッセージ性の強い作品も打ち出していきたいです。
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花を贈る人が一人でも増えたら、きっと社会は平和に近づくと思う
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