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りゅうちぇるの離婚に批判が集まるワケ。“らしさ”の押し付けに嘆くLGBTQ当事者たちの声

 2022年8月25日、タレントのryuchell(りゅうちぇる)とpeco(ぺこ)がそれぞれのインスタグラムで夫婦関係を解消し「人生のパートナーとして暮らしていく」ことを報告しました。翌日には2人の所属事務所が離婚を認めています。  ryuchellは、自身のインスタグラムで「“本当の自分”と“本当の自分を隠すryuchell”との間に溝ができてしまいました」と告白。続けてpecoは、「戸籍上でも、夫婦ではなくても家族という枠にいられるよう、今最善の方法を見つけて進めようとしているところです」と状況を説明しました。  近年、「多様性」という言葉をよく見聞きするようになりました。昔に比べると、さまざまな価値観・考え方・ライフスタイル・自己表現などが語られる機会は、確かに増えています。その一方で、「新しい形の家族」として歩む決断をした2人に対し「結婚したあとなのに無責任だ」「離婚する必要はない」など、批判の声も多く見受けられ、多様性が十分に浸透しているとは言い難い現状もあります。  いまだに「男性・女性はこうあるべき」のような考えが根付いている社会で、ryuchellのような苦悩を抱える人は少なくないはずです。レズビアン当事者としてさまざまな性のあり方を発信する筆者が、ryuchellに近い経験や境遇をもつ当事者2人の意見を聞きながら、今回の報道について考えていきます。

メディアで「理想の夫」として発信された

「これまで皆さまに多様な生き方を呼びかけてきた僕なのに、実は僕自身は“夫”らしく生きていかないといけないと自分に対して強く思ってしまいました」  2016年にpecoと結婚し、2018年7月に第1子を授かったryuchell。さまざまなメディアで自身の生き方を発信し続けるなかで、同時に「生きていくことさえ辛いと思ってしまう瞬間」もあるほど生きづらさを感じていたといいます。さらに、pecoについて「女性を好きになることは、僕の人生の中で、初めての事でした」と綴りました。一般的とされる「夫婦」としての形ではなく、「人生のパートナー」「かけがえのない息子の親」としての道を選んだのです。  自分らしい生き方を発信し続けたryuchellを「夫の鑑」「夫としての行動に絶賛」などと讃えるメディアも多く見られました。たとえ一個人としての姿を発信したつもりでも、それがメディアでは「理想の夫」として発信される。理想の「男性」「夫」として「自分」が当てはめられたことが、生きづらさの引き金となったことがうかがえます。

女性としてでなく、自分として生きる

山田さくらさん(仮名・24歳)

山田さくらさん(仮名・24歳)

 ryuchellが「男」「夫」らしく生きなければならないと思うことで生きづらさを感じていたように、性別による“らしさ”の押し付けを感じる当事者は多く存在します。その1人である山田さくら(仮名・24歳)さんに話を聞きました。 「私は女性として生まれました。現在自認している性別は、男性でも女性でもありません。セクシュアリティは、強い信頼関係や絆がある相手にのみ、まれに恋愛感情を抱く“デミロマンティック”を自認しています。恋愛感情はゼロに近く、現在結婚しているパートナーとも恋人としてのお付き合いはしたことがありません」  自身の性別が男女に当てはまらないと考えるようになったきっかけを語ります。 「始まりは、高校で気になる女性ができたことです。その頃から、女性を好きになるのは男性だけなのか、女性であることは何かについて考えるようになりました。その後、身近な人から性被害を受けたことがきっかけで、女性は性欲のはけ口にされ、受け身にならないと人に捨てられるものだと感じていました。いろいろなことが重なり、女性であることに対して嫌悪感を抱くようになりました」  自分らしく生きていきたいと思う反面、夫として過ごすことに生きづらさを感じていたryuchellと同様、自分が女性でいなければならないと感じたこともあるのだとか。 「過去に異性とお付き合いしたことはほとんどなかったのですが、無意識に頭の中で“彼女”だからという考えが真っ先に出てきたのです。女性であることにとらわれて、世間が抱える女性の理想像を演じようとしていました」
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周囲から“理想の結婚像”を押し付けられ…
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