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『エルピス』はテレビ局の“恥部”をなぜここまで描けたのか、佐野プロデューサーに聞く

実在の複数の事件に着想を得た渡辺あやさん脚本×長澤まさみさん主演の『エルピス-希望、あるいは災い-』(月曜夜10時~、カンテレ制作・フジテレビ系)が、12月26日、いよいよ最終話を迎えます。 【画像をすべて見る】⇒画像をタップすると次の画像が見られます
エルピス長澤まさみ

強さと弱さをあわせ持つ浅川恵那(長澤まさみ)(C)カンテレ

本作は、佐野亜裕美プロデューサー(佐野P)がTBS在籍時の2016年に、脚本家の渡辺あやさんに出会い、企画がスタート。紆余曲折を経て、カンテレ(関西テレビ放送)で実現しました。 ある冤罪事件を追うアナウンサーの浅川恵那(長澤まさみ)と新人ディレクター・岸本拓朗(眞栄田郷敦)。だが、真犯人を隠したい政治家や警察に忖度して、会社はスクープを握りつぶそうとする。 テレビ局の暗部を描きつくす作品が「よく通ったな」と驚くと共に、めげずに実現した佐野P自身にもがぜん興味がわいてきます。 佐野Pへのインタビュー後編では、そのあたりをじっくり聞いてみました。 【前編を読む】⇒『エルピス』は「見たことがない最終回になる」。佐野Pに聞く

佐野Pは、なぜあきらめずに作品を実現できたのか

<恵那は、クソな現実に心を病み、時に迎合しながらも、「正しさ」を諦めない。 『エルピス』の原案は、TBSだけでなくあちこちで断られたという。それがカンテレで実現しそうだということで、佐野さんが2020年に入社。なぜ、冤罪事件という“大衆ウケ”しそうにないドラマにこだわり続けられたのか?> ――佐野さんは今40歳ですが、長く働いていると女性も疲れてきて、長いモノに巻かれ、闘う気力を失う人は多いと思います。めげずに闘い続ける佐野さんの根源はどこにあるのでしょうか。 佐野亜裕美(以下 佐野):いや、私も逃げたというか、メンタルと身体に同時に不調が来て、2019年は丸1年休みましたから。でも、休んだことが人生の転機になりました。 なにより、坂元裕二さんと渡辺あやさんという脚本家と出会って、自分と向き合うチャンスをもらったのが私の人生の大きな分岐点だったと思います。その2人と出会って話せたから、休むことを選べたというか。
佐野亜裕美さん

佐野亜裕美さん

だからみんなに何かアドバイスするとしたら「疲れたらまず休んで」ということですね。例えば、仕事の合間のちょっとした夏季休暇などで立ち止まることはできたとしても、振り返って自分の人生や幸福について真剣に考える余裕はないですよね。だから、長く休むことが可能な仕事、環境にいるとしたら、思い切って休むといいと思います。

レールを降りて休んだことで、自分と向き合えた

佐野:それと、私はあやさんのアドバイスもあって、持っているものも、人間関係も含めて、いろいろ捨てたんですよ。そしたら、自分が欲しいものが実はわずかだったとわかりました。 若い頃は、周りの男性陣がみんな不動産とか車の話、誰々の妻が美人だとかいった話を日常的にしている中にいたこともあって、自分ももっとお金を稼ぐことや、漠然と良い暮らしをすることを考えなきゃと思わされていたんですよね。それに、「お前はエースにならなきゃ」と言われていたので、そのレールに乗ることに一生懸命でした。でも、そこから外れたことですごく楽になった。 TBSからカンテレに移ることも、当時は「キー局から準キー局に?」とか言われましたが、本当にそんなにお金が欲しいのか、良い暮らしをしたいのかというと、そんなことはなくて。私は、買いたい本が買えて、好きな映画が映画館で観られて、居酒屋で気にせずお酒を頼めるくらい稼げたら十分すぎるぐらいです。自分の願いはそれくらいのものだとわかったら、すごくクリアになりました。
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テレビの恥部を描く『エルピス』は、なぜ通った?
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