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BLドラマに「主人公の心の声」がある理由。『おっさんずラブ』からの変遷をたどる

主人公の繊細な感情を表現

『30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい』Blu-ray BOX(TCエンタテインメント)

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 こうしたはるたんのモノローグは、コミカルなドラマ要素を強調するには十分だった。田中圭が茶目っ気たっぷりに首を振りながら、心のなかでつぶやく様子が作品全体の推進力となっていたし、営業所内の男性社員が次々と恋愛模様を展開させるドラマの勢いを加速させる効果もあった。  主人公の驚きの感情を中心に、『おっさんずラブ』は、モノローグが喜怒哀楽を表現するのにうってつけであることを示した。とは言え、これはまだ初期段階。モノローグが主人公の感情をより繊細に、思い切りピュアで、切ない心の声を表現するには、『30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい』(テレビ東京系、2020年、以下、『チェリまほ』)まで待たなければならない。 『チェリまほ』は、赤楚衛二が連ドラ単独主演を果たした記念すべき作品。赤楚のもっさり感満載の安達清役が究極のはまり役だった。さえない同期の安達に対して密かに恋心を寄せるのが黒沢優一。黒沢を演じた町田啓太の完璧なたたずまいが赤楚との相性が抜群だった。非の打ち所のないコンビを組む赤楚と町田が、繊細なモノローグでどれほど胸キュンを量産してくれたことだろうか。

BLドラマの頂点を見た『チェリまほ』

『チェリまほ』が画期的だったのは、安達が30歳の誕生日を童貞のまま迎えたことで身に着けた魔法の力だ。誕生日の朝以来、オフィスフロアに上がるエレベーター内など、肩や手が触れた相手の心の声が読めるようになる。この特殊能力を得た安達は最初こそ戸惑うものの、徐々に相手の心の声に対して彼も心の中で反応してつぶくようになる。  まるで心の声の連打のようなモノローグを聞いているだけでドラマが成立してしまうのは驚きだった。黒沢が自分のことを好きだとを知り、受けとめるかどうかで安達が葛藤する。そして物語が展開するにつれて、安達のモノローグ自体がどんどん繊細な心の襞(ひだ)を絡ませていく。  黒沢の告白を受け止めきれず、お互いの感情がこれでもかと高まる第7話はエモかった。黒沢が安達のことを好きになるきっかけが黒沢自身のモノローグで回想される。告白後の現在の状況に戻ると、傷心の黒沢が大阪出張中、切ないモノローグを響かせる。タクシー車内の黒沢の「もう忘れるんだ。次会ったら」から、オフィスで悶々とする安達の「次会ったら、全部元通り。黒沢はそう言った」にバトンが戻る瞬間は、BLドラマのひとつの頂点を見た気がした。
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それぞれの視点から語るセパレート方式
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