
TVドラマ「美しい彼」公式ビジュアルブック(徳間書店)
『チェリまほ』は、基本、安達のモノローグが語りの中心で、ここぞという場面で黒沢のモノローグがはさみこまれた。それを今度は、全話の前編後編で、主人公ふたりそれぞれの視点をセパレート方式にしたのが、『美しい彼』(MBS、2021年)である。
『美しい彼』では、まず、高校の同級生でカリスマ的な存在である清居奏(八木勇征)に対する、平良一成(萩原利久)の崇拝に近い一方的な気持ちがモノローグで延々と語られる。青春時代を今まさに生きている高校生の甘酸っぱく、憂いを帯びた気持ちがうまく表現される平良の語りが前半を占める。
平良と清居が高校を卒業したあとの後半パートでは、役者になった清居のモノローグにバトンタッチ。第5話、「大きくなったら、アイドルになりたかった」ではじまる清居のモノローグからは、卒業後、平良からの連絡をずっと待っていた清居のほうがいかに健気な乙女だったかがわかる。八木勇征のモノローグのリズムが刹那的な時間を刻むようでたまらなく美しい。
自分が、どうしてあんな変人の平良を好きになってしまったのか。清居は、前半部の平良に負けず劣らず、胸中をだだ漏れにしていく。
平良と清居、それぞれの視点から描くセパレート方式のモノローグは、先行する『おっさんずラブ』と『チェリまほ』から脈々と語り継がれてきた表現性のさらなる可能性を示した。
では、なぜBLドラマには、モノローグが必要なのか。主人公たちの関係性を一言で表現することが難しいのがBL世界の面白さだ。そうしたBL的な関係性を目に見えるかたちで示したのが、主人公たちのモノローグだった。BLドラマ作品を代表する3作品がどれも巧みなモノローグによって作品の純度を高め、言葉にならない繊細な感情を画面の奥からふるわせた。
モノローグは、本人以外には聞こえない。言わば、声なき声。BL世界の住人である春田、安達&黒沢や平良&清居の心の中を彼ら自身の言葉で視聴者にだけこっそりと聞かせてくれる。この“こっそり声”を頼りにBLドラマ世界のさらに奥へ奥へ分け入ることができる。
<文/加賀谷健>
加賀谷健
コラムニスト / アジア映画配給・宣伝プロデューサー / クラシック音楽監修「イケメン研究」をテーマにコラムを多数執筆。 CMや映画のクラシック音楽監修、 ドラマ脚本のプロットライター他、2025年からアジア映画配給と宣伝プロデュース。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業 X:
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