本作では、2週にわたって、万太郎の幼少期と少年期が描かれる。そこから青年期へ突入する第10回のラスト、時が流れて一瞬のうちに成長し、早変わりする。少年期よりむしろ可愛さましましの神木マジックは、鮮やか。まるで中国の「変面」を見ているようだ。
小学校での勉強に不足を感じた万太郎少年は、その日のうちにさっさと学校を後にする。自然が大好きな彼は、木々に囲まれて寝そべり、懐紙に包んだ押し草を見つめる。ここで神木マジック。万太郎青年の清々しい表情が映る。あぁ、神木君だ。万太郎は、空気をたくさん吸い込んで、爽やかな息を吐く。地面に仰向けになり、顔を左に向けると、春の花が咲いている。
勢いよく上体を起こす。背中にくっつく落ち葉の一枚一枚すら愛おしく思われる。こうした細部に宿る神木の天才的な演技も含め、すべてが神木マジックなのだ。

「天狗、また春が来たがじゃ」
ディーン・フジオカ扮する天狗(坂本龍馬)が寝そべっていた大木に向かって、万太郎は呼びかける。神木が操る土佐弁の魅力に耳をすませば、本作がこの先、どれほど豊かな景色を見せてくれるのか、さらにワクワクする。
第3週第11回、山間をぬって、目当ての草花を見つけた万太郎が、「さわって、ええか?」と聞く。柔らかな語尾と感嘆する神木の息づかいが素晴らしい。こういう何気ない場面でもいちいち感動してしまう。万太郎は、「ジョウロウホトトギス」の茎に両手を添えて、慈しむような表情を浮かべる。念入りに点検する姿は、ほんとうに現実世界でこの花を発見した喜びに満ちた演技だ。
神木が自然に呼びかける。すると、視聴者も一緒に新しい花を発見したような喜びを思わず感じる。さすが、神木君だ。本作は、いつまでも見ていたい神木の演技の宝庫だ。
<文/加賀谷健>
加賀谷健
コラムニスト / アジア映画配給・宣伝プロデューサー / クラシック音楽監修「イケメン研究」をテーマにコラムを多数執筆。 CMや映画のクラシック音楽監修、 ドラマ脚本のプロットライター他、2025年からアジア映画配給と宣伝プロデュース。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業 X:
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