というわけで、本作を読み解くキーワードは、頭から尻尾までピュア・ラブである。BL的な関係性を結ぶふたりの主人公たちがピュアである状態とは、つまり露骨に性的なものは無に等しいということだ。
手を握るのはOK。でも日常的なキスはNG。という厳格なラインをもうける。ただし目に見える行為はダメでも言葉でなら目をつぶろう。晃が一目惚れする慎太郎は、柔らかい雰囲気にも関わらず意外に肉食系。結構激しい言葉でアピールしてくる。
多感な時期の慎太郎は早いところ言葉を超えて、晃に触れたくてたまらない。未成年には手を出さないという心の制御装置を持つ晃はこらえ、じらす。これはキスまでの道のりがかなり険しそうな……。
BLドラマの新たなスタンダードとして人気を支える秘密

『おっさんずラブ』公式サイトより
第1話で「俺、ゲイなんだわ」と早々にカミングアウトした晃は、それ以降慎太郎を家に入れない。これでキスはおろか、あらゆる接触がどんどん遅延する。主人公たちがお互いに持つ好きの感情とは裏腹に、徹底して物理的距離が保たれる演出がミソである。
それを傍観する視聴者からするだんだんじれったくもなる。ただしそれはとても幸せなじれったさではある。ふたりがキスしないのはいいが、ふたりとも揃いに揃って唇がぷるんと分厚すぎる。
石原さとみ級の唇の誘惑。第2話で晃がもらった帆立を慎太郎と七輪で焼いて食べる場面がある。貝柱とその周囲のエラやヒモがもう唇にしか見えない。唇(妄想)地獄。キスくらいならいいだろうと、ラインを一段階下げたくなる。
『おっさんずラブ』(テレビ朝日、2018年)をエポックメイキングとして、『30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい』(テレビ東京、2020年)、『美しい彼』(MBS、2021年)とBL黄金三部作が続くが、さすがにここまで純度を保つ禁欲的な作品ではなかった。
だからこそ、『みなと商事コインランドリー』は、BLドラマの新たなスタンダードとして今後の指標となる。言わば物語の倫理基準自体が本作の人気を支える秘密なのだ。