
第3話より
あるいは第3話冒頭。松下洸平扮する生真面目僕ちゃんキャラの春木椿がこれまで過ごしてきた人生を振り返り、自分という存在について一人語りする。彼が最終的に導くのはこれ。
「無個性のいい人になった」
結構いろいろ思索しながらたどりつく言葉はシンプルそのもの。でも捻られてもいる。自分をよくわかっている人による理論的でコンパクトな自己分析の極致だ。
そうした椿のキャラクター性が見事に結晶している場面としては、結婚寸前で別れた婚約者・小岩井純恋(臼田あさ美)との会話もいい。
一方的に離れた純恋が椿の気持ちを聞く。彼は言う。「好き同士だったけど、両思いじゃなかった」、「両思いが好き同士とは限らなくて……」。それに対して思わず「何それ」と返す純恋。椿が好きと両思いについて説明するのだが、どんどんよくわからなくなる。
純恋もさらに「珍しくいっぱい喋る時って、意味わかんないことばっか言うよね」と言う。でもこの意味のわからなさがいい。
わかりやすいことばかりが人生ではない。人生の複雑さを椿の台詞を通して松下洸平がエモーショナルにふるわせてくる。
台詞だけでなく、椿の内面でも複雑さがぐるぐるうずまく。純恋に「怒ってないの?」と聞かれた椿は、「怒ってるよ。怒ってるし、悲しんでるし、悩んでる」と答える。怒哀楽を同時に感じている状態。
いやこれって、竹中直人の怒りながら笑う顔芸みたいというか、それ以上?でも松下の演技を見ると、やや悲しみが強いが、無表情に近い。
なるほど、複雑だ。椿の台詞もよくわからないが、彼の表情はもっとよくわからない。
これほどの難役をここまで自然に、繊細に、それでいて驚きも与える表情を作って見せられる松下洸平。常人ではない複雑体と化している。