結婚直前で捨てられた男の“悲しい自己分析”…。複雑すぎる表情に注目|ドラマ『いちばんすきな花』
純粋に視覚表現を主体にする映画に比べ、テレビドラマは仮に耳で音を聞いただけでも内容が理解できるように作られている。
だからテレビドラマには耳に残る台詞が多い。毎週木曜日よる10時から放送されている『いちばんすきな花』(フジテレビ)は、ほんとうに名台詞の宝庫といえる作品。
「イケメンとドラマ」をこよなく愛するコラムニスト・加賀谷健が、各キャラクターの台詞に耳を傾けながら、本作の“心地よいフラストレーション”について解説する。
『いちばんすきな花』の何が素晴らしいかって、とにかく台詞の上手さ、シンプルな言葉の響きにある。
『silent』(フジテレビ、2022年)でいきなり最注目株の脚本家に躍り出た生方美久の脚本にしかない、味のある名言の数々。
それは単に言葉の表面的なものではなくて、キャラクターそれぞれの葛藤や迷いが反映された、豊かな“迷言”だからこそしみる。特別美しい日本語でもないのになぜだろう?
各話の冒頭、それぞれのキャラクターを象徴する必ず迷言が繰り出される。まず第1話は多部未華子演じる潮ゆくえの迷言。
塾講師の彼女が問題を解く生徒たちを見回る。ひとりだけなかなか進みが悪い生徒に声を掛けたあとの台詞がほんとうに素晴らしい。
生徒は全然やる気ない表情で進捗を報告するのだが、周りから遅れていることに焦りは感じているよう。
自分と周りをどうしても比べてしまう。そんな年頃の彼女にゆくえがこの台詞。
「よそはよそ。うちはうち」
ほんとになんてことない言葉の連なりなのだが、潮ゆくえというキャラクターの人物像がはっきり言い表せているように思う。
第1話のこの冒頭近くの場面を見れば、彼女はこういう考え方の人なのかと、視聴者は一発で理解する。ゆくえを演じる多部未華子にしても、彼女のキャラクター性を即座に掴むことができる。
しかも多部特有の台詞回しと呼吸感がよりリアルに伝えてくる。ああ、生身の人間がここにいるんだな、と。こういう当たり前のことを当たり前に聞こえる台詞で表現できてしまう上手さを全編から感じる。
豊かな“迷言”がしみる
当たり前に聞こえる台詞
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