筆者が特に印象的だったのは、第2話で「なぜベリーダンスを踊るのか?」と問われた田中さんの回答です。「正解の形が見えないんですよ。起源も曖昧で多種多様過ぎて」「正解がないから迷うんです。自分がこうありたい正解を、自分で選び取るしかない」。この、
正解がないなかで、自分の頭で考えて生きていこうとする人間の姿こそが、作品のテーマなのだと思いました。
多種多様な価値観が入り乱れる現代社会のなかで、登場人物たちが自分なりにもがき、考え、生きていこうとする姿に勇気をもらえるのです。
また40代の田中さんと20代の朱里を中心に、世代を超えて、価値観を共有したり、認め合ったりして、刺激を受け成長し合う様子は、実に尊い!
相手や自分自身のことを決めつけて、扉を閉じてしまっていないだろうか……と、自身を振り返るきっかけにもなりました。
ラブコメベースで軽い気持ちで観ていられるのに、ところどころでハッと気づかされる。心を掴まれる。そんな名作が、12月24日放送の最終回でどんな終焉を迎えるのか、最後まで楽しみです。
堀田真由が地上波連続ドラマ初主演を務めた『たとえあなたを忘れても』(ABCテレビ・テレビ朝日系、12月17日に最終回)も、非常に良作でした。ラブストーリーの名手として知られ、ドラマ『ラブジェネレーション』『神様、もう少しだけ』(ともにフジテレビ系)が大ヒットした脚本家・浅野妙子氏のオリジナル作品です。

画像:ABCテレビ『たとえあなたを忘れても』公式サイトより
ピアニストになる夢に挫折した美璃(堀田真由)と、記憶障害を抱える空(萩原利久)のラブストーリー。実力派の出演者と脚本家のコラボに一定の期待はもっていましたが、「記憶をなくす」という設定に少し躊躇していたんです。しかし観始めると、堀田・萩原の両名のピュアさが引き立っており、
ピアノの優しい旋律とともに“切なくも美しい”物語の世界観にどんどん引き込まれていきました。
ラブストーリーという以上に、登場人物たちにリアリティがあったこともよかったポイントだと思います。みんなが夢を叶えてキラキラした人生を歩んでいる訳ではない。挫折や病気、人間関係や仕事などで上手くいかないことがあったとしても、対峙しなくてはらない現実がしっかりと描かれていました。
はじめは描かれる厳しい現実に、心が痛むこともありました。だからこそ、登場人物の一人ひとりが、大切な人を思いやりながら、悩みながら生きていく姿がやたらと沁みたのかもしれません。「記憶をなくす」という設定も、
いわゆるドラマのご都合主義的なものではありませんでした。記憶障害という病としてきちんと丁寧に描かれており、病に至った背景にも破綻がなく、物語の展開が受け入れやすかったです。