目黒蓮と古川琴音のやりとりは涙なくしては見られない
複雑な人間もようを、言葉の魔術師・生方美久の巧みなセリフが彩る。固有名詞の「海」と「夏」と人名の「海」と「夏」でいささかややこしい、これがポイント。「海好き」「夏好き」がダブルミーニングになる。
なにごとも曖昧(あいまい)な夏に対して、自分の意思がしっかりし過ぎている水季。性格は対称的だが、水季はある点においてはなぜか曖昧になる。そこで生きるのが「海」と「夏」の言葉だ。

(C)フジテレビ
大学時代、夏とつきあい、水季は妊娠した。中絶するための書類に夏にサインをもらおうとするとき、気丈にふるまう水季と、驚きとなんともいえないじわじわした感情が心と瞳を浸していく夏。
「ごめん」「一週間不安だったよね。ごめん 気づかないで。ひとりで一週間も。不安な思いさせてごめん ごめん」とひたすら謝る夏。こみあげてくる水季。彼女は、夏に迷惑をかけたくないと思っている。
「書いて」と促す水季に、「ほかの選択肢はないの?」と夏はちゃんと彼女の気持ちを慮り、中絶以外の選択肢はないのか問いかけるのだが、「私が決めていいでしょう」と押し切られ、泣きながらサインをしてしまう。
このシーンの目黒蓮と古川琴音の不器用すぎるやりとりは涙なくしては見られない。ふたりとも型にはまらない、心の揺れを演じている。
若すぎて青すぎるふたりの意地っぱりと勘違いの思いやりが折り重なって、取り返しのつかない瞬間が出来上がる。
何よりも胸に迫る思い出とは、ほんの数秒のズレによる取り返しのつかない一瞬なのだ。
水季はそのまま大学を辞め、夏から離れる。
「夏くんより好きな人ができちゃった」それは水季のせいいっぱいの嘘で、でも本当でもあって。
そして夏は勘違いしてしまう。ここで夏が、夏より好きな人とは水季に宿った子供であることに気づけばよかったのに、というのも酷な話か。
水季が選んだ相手に「散々ふりまわされてどうせ最後は捨てられる」と、夏は悔し紛れに予言するが、それは当たってしまった。水季は海を捨てたわけじゃないけれど、娘を母のない子にしてしまうのだから。
それから8年、いま、夏の家には海がいる。海の持っていた水季のスマホには、海が撮ったムービーが保存されていた。

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そこで水季は寒いのが苦手と言いゴロゴロして、「夏が好きだから」「夏が一番好きなの」「夏はママがもらいました」「(冬眠とは)夏がお迎えくるまでひっそりしていること」と「夏」を連発する。
これはsummer ではなく自分のことだと感じたかのように夏は涙する。でも、水季が一番好きなのは、海。
海にもう1回見せてと言われてスマホのムービーを再生すると「海好きー」「海大好きー」と絶叫する水季。ここでようやく、あのとき水季が、夏より好きな人ができたと言った真実に気づいても、あとの祭り。
8年も前に取り返しのつかないことをしていたと、後悔の海に溺れそうな夏の心情に、主題歌back number 『新しい恋人達に』がかぶさって、胸の痛みは満潮となった。