「ママ終わったの?」「ママ終わっちゃったの?」
死の概念がわからない海に、「死んでも、終わってはないない」と夏は答える。
すかさず海は「夏君、海のパパでしょう? 夏君のパパ いつはじまるの?」と尋ねた。

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冒頭、水季が「海(sea)がどこから始まってるか知りたいの?」「終わりはないね ずーっと海で」と海(娘)に語っていた。
境界のわからない海のはじまりと終わりと死のはじまりと終わりはどこか似ている。死とはどこからが死なのか。ほら、よく、人は忘れられたときが本当の死だというではないか。
水季の肉体は死んでも、夏に海を託し、心は死なず、思い出も死なず、永遠に生きる。
『海のはじまり』とは、死者をも加えた家族の物語なのではないだろうか。
『silent』は冬のブルー、今回は夏(summer)のブルー
夏なのに、どこかひんやりしたブルーの色味は、海や死を思わせる。窓ガラスの透明感をはじめとして、なにげない電車の手すりまで薄いブルーに見える。
これは生方美久脚本、風間太樹監督、村瀬健プロデュース、目黒蓮主演で社会的ブームを巻き起こした恋愛ドラマ『silent』のときも愛された風間ブルーである。『silent』は冬のブルーだったが、今回は夏(summer)のブルーだ。

『silent シナリオブック 完全版』生方美久(脚本)
主人公・夏のこれからが気になるのは無論だが、この非常事態を見て最も気になったのは、現在の夏の恋人・弥生のことだった。彼女が元カノとの子供がいることを知ったら当然動揺するだろう。
第1話のほとんどが、夏と水季との回想で、それがあまりにキラキラしていて、ちょっと弥生の立場がないだろう。そのうえ、夏が別れて8年もの間、スマホに水季のムービーや写真を残してあった事実がキツイ。
いま、水季が生きて現れるよりも、美しい思い出は最強なのである。
<文/木俣冬>
木俣冬
フリーライター。ドラマ、映画、演劇などエンタメ作品に関するルポルタージュ、インタビュー、レビューなどを執筆。ノベライズも手がける。『ネットと朝ドラ』『
みんなの朝ドラ』など著書多数、蜷川幸雄『身体的物語論』の企画構成など。Twitter:
@kamitonami