
重三郎は相手の身分を知らずに接客する。重三郎を殴った腰ぎんちゃくのひとりが「このお方はな」と仰々しく言いかけて平蔵が制止する。「その辺にしておけ」とたしなめる平蔵は、身分を明かさず重三郎に「おめぇもさぁ、人を見る目持ったほうがいいぜ」と肩をたたく。歌舞伎俳優らしい重心と力強さ。ただし、ここはあくまで(今の時代は)現代劇の範疇と考えるべき時代劇に合わせて台詞を発する軽やかさ。
中村隼人は時代劇を現代劇として演じる塩梅がうまい。旧劇のように古くさく大袈裟にならず、令和のドラマ作品に出演しても変に力まない。でも全体として軽くはない。そこは普段から歌舞伎で歴史上の人物を演じ込み、古典的たたずまいを武器にしている彼固有の演技。
大河ドラマで、誰もが知る歴史上の人物を演じる上で、歌舞伎俳優としての重心は置きつつ、現代劇俳優であることにも意識的なケレンみをうまく匂わせることができる。フレキシブルなタイプである中村隼人は、現代の大河ドラマには欠かせない資質だろう。
平蔵は、吉原屈指の人気を誇る花魁・花の井(小芝風花)に一目惚れする。すぐに花の井を指名して遊びたいが、先約が入っていた。そこで平蔵の身分を知った重三郎が、実は花の井とは幼馴染みだと説明して仕切り直しを提案する。
そのとき、重三郎は「駿河屋でぇございます」と歌舞伎風におどける。NHK作品初出演にして大河ドラマ初主演。異例の大抜擢である日本映画界のプリンス、横浜流星が歌舞伎界のプリンスの前で歌舞伎ポーズ(みえ)を決める。横浜と中村は2023年の舞台『巌流島』で共演してプライベートでの仲の良さを知られている。そんなプリンス同士による愉快なかけ合いである。
重三郎を見込んだ平蔵は、第2回冒頭で再びつたやにやってくる。「きたぜ」と言って、額からたれるほつれ髪(しけ)を左手人差し指でいじってみせる。愛すべき仕草。やっぱり可愛げがあるキャラクターである。結局彼は花の井にすべての財産を注ぎ込んでしまう。結果、吉原に通えなくなってしまい、ドラマからは一時退場。
まんまとカモられた平蔵に対してSNS上では「カモ平」というあだ名がついた。歌舞伎用語としての二枚目は色男を意味するが、色男にはなりきれないところに平蔵の純粋さが極まる。第6回で再登場すると、カモ平を改めてはいないけれど、少しは格好よく変化した。時代劇に慣れた歌舞伎界のプリンスがいるだけで、大河ドラマを見る安心感がある。
<文/加賀谷健>
加賀谷健
コラムニスト / アジア映画配給・宣伝プロデューサー / クラシック音楽監修「イケメン研究」をテーマにコラムを多数執筆。 CMや映画のクラシック音楽監修、 ドラマ脚本のプロットライター他、2025年からアジア映画配給と宣伝プロデュース。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業 X:
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