大ヒット朝ドラで“愛くるしい好青年”がハマり役に。25歳俳優が最新作でみせた微細な工夫とは
『HiGH & LOW THE WORST X』(2022年)では、悪の総帥を演じていた三山凌輝だったが、2024年に大きな話題を集めた朝ドラ『虎に翼』(NHK総合)で演じた好青年役がはまり役になった。
久保史緒里とW主演する公開中の初主演映画『誰よりもつよく抱きしめて』でも愛くるしい名演が、広く評価されている。ダンス&ボーカルグループ「BE:FIRST」のメンバーとして培ってきたリズミカルな演技が、今、俳優としての三山を底上げしている。
内田英治監督作『誰よりもつよく抱きしめて』の三山凌輝の演技は、一見する価値がある。男性俳優の演技を独自視点で分析するコラムニスト・加賀谷健が解説する。
SKY-HI総合プロデュースで、日本のダンス&ボーカルシーンを牽引するBE:FIRSTのメンバーである三山凌輝が、俳優としてどんどん芽吹いている。三山の才能が大きく開眼したのは、伊藤沙莉主演の朝ドラ『虎に翼』(NHK総合、2024年)である。
伊藤演じる主人公・佐田寅子の弟・猪爪直明を演じた。岡山の学校で寄宿舎生活をしていた直明が終戦前、猪爪家に帰ってくる第9週第41回で、三山が初登場する。好青年に成長した直明の再登場は、作品全体にさわやかな風を吹き込んだ。
寅子のことを周囲は「寅ちゃん」と呼んでいたのに対して、直明は「お姉ちゃん」と呼ぶ。この呼び方がとにかく新鮮だった。何の屈託もない眼差しと表情で「お姉ちゃん」と呼ぶごとに、視聴者は毎朝、心ときめいたものである。
直明は、猪爪家の大黒柱である寅子を熱心にサポートする。判事補に昇進して職務に明け暮れる寅子のために直明が目覚まし役を引き受ける。第14週第66回、居間で寝てしまった寅子を起こす朝の場面が印象的だ。
といっても強引に身体をゆすったりするのではない。さわやかで新鮮な響きである「お姉ちゃん」呼びの語気を強めて、一瞬、声を張り上げる。しゃきっと目覚めよくさせる直明のさわやかパワーは効果覿面だ。
引きの画面上、その一声を込めるまで三山は、ちょっと間を置く。この間合いが実に的確である。シーンの持続を引き締める役割を担うが、演技は力まない。
ここが三山特有のリズミカルな演技であり、この場面での彼は、調整された声の音そのものを空気中にふるわせているようだ。彼の演技からは、三山凌輝自身を役にさっと差し出すような柔軟さを感じる。
「お姉ちゃん」呼びが新鮮だった朝ドラ『虎に翼』
役にさっと差し出す柔軟な演技
1
2