大ヒット朝ドラで“愛くるしい好青年”がハマり役に。25歳俳優が最新作でみせた微細な工夫とは
三山オリジナルのビート感
初主演映画『誰よりもつよく抱きしめて』では、よりリズミカルな演技が組み上げられている。冒頭からいきなり名場面である。三山演じる絵本作家・水島良城がテラス席で絵を描いている。外は寒い。マフラーで口元まで覆い隠している。
良城が小さく息を吐く。マフラーがずれ、口元が恥ずかしげに露になる。今度は鼻から息を吐く。さらにもう一度、魔法瓶からホットドリンクを飲んだあと、ゆっくり息を吐く。
計3回。3拍分のビートを打って、三山オリジナルのリズムを作ってしまうような演技の組み上げ方である。演じる本人がどれほど意図しているかはわからないが、映画的なビート感が心地よい。これは上述した目覚まし場面で培った空気感をベースに改良を重ねた実践例だと思う。
「うん」がクリアに発音される感動的場面
加えて音楽的なのが、台詞である。強迫性障害である良城は、他者とのコミュニケーションが苦手であり、相手に対する同意としての「うん」をはっきり発音しない。「う」と「ふ」の間くらいの音をもらす感じ。
さらにビニール袋を常に着用するほどの潔癖症であり、彼のすべてを受け入れてきた長年の恋人・桐本月菜(久保史緒里)にふれることも、逆にふれられることもできない。そのため二人の間には常に物理的な距離がある。
その距離を占めているのは何か。空気である。良城の発音が曖昧になる分だけ「う」と「ふ」の間の音が、空気をつたって月菜に届くまでの時間がかかる。つまり、彼女とのコミュニケーションを何とか成立させるための手がかりなのではないだろうか。
『虎に翼』ではあれだけさわやかにはっきり「うん」に力を込めていたから、ここには三山の繊細な工夫を感じる。BE:FIRSTによる書き下ろし主題歌「誰よりも」の作詞に三山も参加して、音楽面でもこだわりを感じる。
ただ、この「うん」が『誰よりもつよく抱きしめて』でもラストに一回だけクリアに発音される感動的場面がある。その瞬間の朗らかな三山凌輝は一見の価値がある。
<文/加賀谷健> 1
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