旅先では「忙しい日常で忘れていた本音に気が付く瞬間がある」
――新著のタイトルは『おもうがたび』ですが、記録された3年強の旅は「様々なことを『おもう』時間」だったと振り返っています。背景にはどのような思いがあったのでしょうか。
宇賀:旅に向かう前から「何かをおもおう」と考えていたわけではなかったんです。私は純粋に旅が好きで、現地では「思いっきり食べて飲み、遊ぶ」と割り切って、そこでしか味わえない体験に集中しています。ただ、そうしてみると結果として勝手に思考が熟成されていくんです。忙しい日常で忘れていた本音に気が付く瞬間があるし、その余白があるから旅が好きなんです。
実は、新著のタイトルは当初、1か月毎に「3週間働いて1週間休む」のサイクルで海外にも頻繁に行けるようになったことから、地球を舞台にした「ちきゅうがたび」を考えていました。ただ、前著と同じくタイトルを考えてくださった放送作家の小山薫堂さんが「『ちきゅうがたび』だと“どこに行って何をした”の旅日記としか思われないのでもったいない。地球を舞台に何を思ったのかがテーマのエッセイだから『おもうがたび』がいいんじゃないですか」と提案してくださったので、私も納得して変更しました。
――収録された国内外40か所のうち、ベトナムは人生の転機となった場所だそうですね。テレビ局を辞めてフリーランスとなるきっかけを与えてくれた国に旅番組『アナザースカイ』(日本テレビ系)で再訪されて、現地では「焦らなくていい」と気が付いたと振り返っています。
宇賀:初めてベトナムを訪れた当時、昼間から地べたに座りながらおしゃべりしている現地の方々や、お店を開けているのにソファでくつろいでいる店員の方を見て「私もそろそろ働き方を変えてもいいのではないか」と思い、テレビ局の退職を決めたんです。
約5年ぶりに人生を変えてくれた国に再訪するにあたって、番組のこともあったので当初は「何かを見つけて、決めなければ」と思っていました。ただ、いざ現地に行ってみると「今まで、何かを決めようとして動いたことはなかったよね」と気が付いたんです。常に流れに身を任せるままだったと思い出して、「このまま進んでいけばいい」という答えにたどり着きました。
――ベトナムを再訪したのは2023年4月でしたが、その後は行かれたんですか。
宇賀:定期的に足を運んでみたいとは思っていますが、まだ行っていません。私の旅は「ノールールがルール」になっていて、先々を決めてしまうと、ただのスタンプラリーになってしまうと思っているんです。好きなときに気の向くままに動けるのが旅のよさですし、そのためにフリーランスとしての生活を軸にした自由を重視しています。
人生初の決断“家の購入”で変化「旅をすることに似ていた」
――2023年10月に訪れた福島県猪苗代町でのフェスは、元旦那さんとの最後の旅になったそうですね。新著では「幸せな結末」というタイトルを付けられていて、宇賀さんに「卒業証書をあげよう!」と言いながら、元旦那さんが離婚届を手渡されたお話は印象的でした。
宇賀:読んでいただけたら、タイトルの意味も理解してもらえると思っています。私にとってはテレビ局からの退職も、結婚も離婚もすべてが大切な思い出なんです。新著でも「自分は幸せだな」という素直な気持ちで、書きたいと思ったエピソードでした。
離婚発表の当時は友人から「私も離婚したいんだよね」と相談もけっこう寄せられたんですが、私自身は離婚を肯定も否定もしたくありません。ただ、私の場合は「こうだった」と伝えることには意味があると思ったんです。元夫も新著を読み、長文で感想のメッセージを送ってくれました。優しくて少しユーモアもある、彼らしい心に残る文章でした。
――最後のエピソードでは、人生で初めて家を購入されたと明かしています。この記事の時点では半年ほどが経過して、日常生活での変化はいかがですか。
宇賀:仕事でも遊びでも飛び回っているので、家は「せいぜいお風呂に入り寝られればいい」程度の感覚だったんです。ただ、2026年6月で40代にさしかかるのを考えて「自分の好きなものだけを集めて、本当に心ときめく暮らしに挑戦してみたい」と思って、購入しようと決めました。
中古マンションの一室をリノベーションし、壁の色や素材は自分の好きなものを選びました。家具もベッド以外はすべてアンティークで、半年かけて揃えたんです。今後もむこう2〜3年かけて、自分の納得するもので空間を固めたいと考えていて。一つひとつのアイテムが作られた時代や原産国に目を向けるのは「旅をすることに似ている」と思っています。
――40歳を目前にして書き終えた新著では「人生もいよいよ後半戦に突入する」と意気込んでいました。これからの生活には、何を期待されていますか。
宇賀:結局、自分の人生を面白くするためには「自分で頑張るしかない」と考えています。40歳は「まだ若いし、人生を悟るには早い」と言ってくださる方もいますが、単純な時間や年数ではなく、これまでの40年とこれからの40年では、感覚として時間の進み方が早くなると思うんです。
あっという間に過ぎるのであれば1日たりとも無駄にしたくないですし、「タイム・イズ・マネー」ではなく「タイム・イズ・ライフ」を大切にして、やりたいことはどんどん前倒しに実現しながら、心のおもむくままに旅も続けていきたいと思います。
<取材・文/カネコシュウヘイ 撮影/荒熊流星>