「ジャスファイのツアーグッズの詳細まだ?もう初日まで2週間切ってるよ 運営はちゃんとしてほしい……」
みかんは率直に、事務所へ向けてコメントしたつもりでした。誰かが声をあげれば改善されると思ったのです。それがSNSで大バズり、みかんに共感し、感謝するコメントであふれ、みかんは高揚感を得ます。
ジャスファイのため、真中くんのため、ファンのため。私は正しいことをして、評価された。
実際、みかんが投稿した直後に問題は改善。偶然かもしれませんが、みかんは自分の功績だと信じてしまいます。使命感に燃えたみかんの行動は加速していき、すべてのジャスファイ情報を、ジャッジするようになるのです。
ファンがいてこそのアイドル、推しがいてこそ満たされる気持ち。応援したいという純粋な思いが、推しを自分の願望どおりに支配したい欲に変わってしまう。
運営は、ファンはこうあるべき、真中くんはそんな人じゃない、etc。フォロワー数は数千人になり、みかんはその人々すべてに支持されていると慢心してしまうのです。
「最近のママは好きなアイドルを見てても全然楽しそうじゃない」。
夫が、そう告げたのは、まぎれもない事実でした。推しの存在が息抜きのはずだったのに、今や子どもたちをほったらかしてSNSと向き合っているのです。
意見や提案が、批判になり、ついには誹謗中傷になる。恐ろしいのは、みかんがそれを正しさだと思い込んでいること。真中くんという推しをとおして、自己肯定感を間違った形で確立してしまったことです。
やがてみかんの言動は過激化し、仲間は離れていき、ついには夫と子どもも家を出ていってしまいます。そんななか、推しの熱愛が発覚しーー。
みかんがかつての自分を取り戻すのはいつなのか、全てを失った先に何が待っているのか。
ぜひ、本書で確かめてください。
<文/森美樹>
森美樹
小説家、タロット占い師。第12回「R-18文学賞」読者賞受賞。同作を含む『
主婦病』(新潮社)、『私の裸』、『
母親病』(新潮社)、『
神様たち』(光文社)、『わたしのいけない世界』(祥伝社)を上梓。東京タワーにてタロット占い鑑定を行っている。
X:@morimikixxx