●連載「ファッション誌が答えてくれない相談」01 by小林直子●
2年ほど前からよく聞く「ノームコア」って何ですか? 最近あまり聞きませんが、まだ流行っているのですか? 取り入れたほうがいいですか?
回答:小林直子(ファッション・ブロガー)
ノームコアとは、コアなノーマル、日本語でいったら、超普通ということになります。これはアメリカのとある会社が名付けたスタイルで、『ニューロマンサー』で有名なサイバーパンクSFの作家ウィリアム・ギブスンの『パターン・レコグニション』の主人公のスタイルからとった名前ということですが、いってみれば、
ただの白いTシャツにジーンズというようなシンプルなスタイルのことです。

ノームコアの見本として挙げられていたのはスタイルのいいファッション・モデルたち、もしくはアップル社を設立したスティーブ・ジョブズ氏のような成功した有名人です。彼らが好んでよく着ているのは白Tシャツに黒のスキニー・ジーンズ、革のライダースというような究極のシンプル・スタイル。こんなスタイルを一般の人たちにもさせようと、ノームコアというキャッチーな名前をつけてみたのです。
普通の人がやったら、ただ普通のカッコだったノームコア
しかし実際には、言うほどに
このノームコアは流行りませんでした。
もともと多くの人がジーンズや白いTシャツは持っていましたから、これが目新しいスタイルというわけではありません。何よりも、この何の装飾もないシンプルなスタイルがもっとも似合うのはスタイルのいいモデルたち。
または、すでに成功していて有名で、誰が見てもその人だとわかり、かつ忙しくてファッションに時間もエネルギーもかけたくない人たちです。
そんな人たちのためのファッションを一般の人にも流行らせようとしたのですが、やはりそれはうまくいきませんでした。
原因はそれだけではありません。現在、流行の最先端は2015年にグッチのクリエイティブ・ディレクターに就任した
アレッサンドロ・ミケーレが提案するハイパー・ミックスと呼ばれるスタイルです。クラッシック、モダン、スポーツなど、あらゆる要素を過剰な装飾と多色で表現するスタイルは、ノームコアとは対極にあるもの。
時代の気分と逆行したノームコアは、多くの人の心をとらえることができなかったというのが本当のところだと思います。