●連載「ファッション誌が答えてくれない相談」26 by小林直子●
着回しのいい靴を探しています。この1足があれば便利というオススメはありますか?
多くの人がいまだに、どんな格好にも合う靴とバッグを探しています。
ですが、前提条件がはっきりしない質問に、そのまま答えることはできません。ですからまずは前提条件をはっきりさせます。
まず、「どんな格好にも」とは、仕事のとき、遊ぶとき、デートのとき、旅へ行くとき、雨の日、雪の日、嵐の日、山へも海へも行くときの格好ぐらいでしょうか。
もしその人がお望みならば、すべてのシチュエーションにおいて、同じ靴で行くことは可能です。それは言うなれば好みの問題です。そうする自由は誰にでもあります。

WEARより 靴:CONVERSE
では次の言葉、「合う靴」の「合う」についてです。この「合う」とはどういう意味でしょうか? 「合う」って何に合うのでしょうか?
その靴が「合う」かどうかは、見る人がそう決めます。それを誰が、もしくは何によって判断されるかということですね。
もし靴をつくる側が、「1足の靴ですべてのシチュエーションに合う」と信じているのなら、常に1種類の同じデザインの靴をつくるでしょう。けれども、現在、店頭では多種多様な靴が売られています。西洋の衣服に合わせる靴について、つくる側は1種類では足りないと考えているということです。

WEARより 靴:ACNE
あるいは1種類の靴でどこへでも行ける文化圏もあるでしょう。着物に合わせる履物も、下駄、雪駄、草履など、バラエティは西洋の靴ほどはありません。
それでも、シチュエーションによって何を合わせるかというルールはあります。同じ草履では、すべての場所へは行かない、すべての和服には合わせないというルールがあるからです。それは歴史、伝統、習慣によって決まったものです。
西洋の衣服という文化においても、どこへでも同じ靴で行くというルールにはなっていません。
洋服とはそれ自体単独で存在しているものではなく、西洋文化の中で存在し、歴史と伝統を持っています。ですから、西洋の靴をデザインする人に「何でも合う靴がありますか?」と聞いたならば、「そんなものはありません」と答えるでしょう。

WEARより 靴:CHARLES & KEITH 7452円
それでもなお、「どんなものにも合う靴」を探すのだとしたら、それはいつでも「そこそこ合う」ものでしょう。すべてのものに「ぴったり合う」ということではありません。