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発達障害は“親の愛情”と関係ない。少年Aへの診断ミスが生んだ悲劇

「育て直し」だけでは解決しなかった

 当時、関東医療少年院では、少年Aの「愛着障害」を克服するために、スタッフ内で疑似家族をつくり「育て直し」を行いました。中でも、母親役の女性医師に、Aが心を開いていたとも報じられました(映画では、この女医を冨田靖子さんが演じています)。  関係者は、誰もが「育て直し」が成功したと思っていたのでしょう。しかし、元少年Aが手記で矯正教育のことを書けなかったことからもわかるように、Aにとっては「愛着障害」の治療だけでは「自閉症スペクトラム障害」の症状の改善にはつながらなかった……と言わざるを得ません。  自閉症スペクトラム障害は治療や矯正によって治る性質のものではなく、根本的な治療法はまだありません。ただ障害の出方や、程度を低くすることは可能だといいます。「症状が固定してしまう前に、症状をマイルドにするという感じでしょうか」と、犯罪精神医学専門の影山任佐氏(東京工業大学名誉教授)は話してくれました。  もちろん、決して自閉症スペクトラム障害だからといって犯罪を起こすわけではありません。犯罪は、様々な環境や要因が絡まり合って起こるのです。

発達障害そのものでなく、ケアしなかったことが悲劇を呼ぶ

 この度、筆者は、神戸連続児童殺傷事件も含めて凶悪犯罪と呼ばれた多くの少年事件を分析した『となりの少年少女A』(河出書房新社)を出版しました。  平成29年度の『犯罪白書』の統計によると、少年犯罪が凶悪化しているとは必ずしもいえません。むしろ問題は、事件がより「特殊性」を帯びていることと、動機が不明瞭になっていることなのです。周囲から「普通の子ども」とみられ、補導歴も全くないような青少年たちがなぜ、突然大事件を起こすのか。親や学校などの周囲は、子どもの異変に気づかなかったのか。次々に疑問が出てきます。 学校 突然、事件を起こした「普通の子」について、約20年間取材していた結果、ある共通項にたどり着きました。  これまで、少年犯罪に共通する背景には「家庭環境の問題」、「家庭の経済的要因(貧困)」などが挙げられていました。ところが、最近では環境だけでなく、「医学的な背景」を重要視しなければならないことが分かってきたのです。  それが、前述の「自閉症スペクトラム障害」です。 『となりの少年少女A』で取り上げた数々の凶悪少年事件(※)は、いずれも周囲からは「まじめ」と見られていた青少年が加害者で、その動機の不可解さが社会を驚かせたものです。いわゆる「怨恨型」ではなく「実験型」とも呼ぶべき事件でした。  実はこれらの加害者が、いずれも「自閉症スペクトラム障害」というハンディキャップをもち、多くのケースでは、事件までその診断に気付かれずにいたのです。
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新幹線殺傷事件と発達障害
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