『ストーカーとの七〇〇日戦争』内澤旬子が語る「恐怖に脅かされる生活は一生続く」
後を絶たないストーカー事件。平成30年には、ストーカー事案で全国の警察に2万1556件の相談が寄せられました。
ニュースで目にするものだけでなく、人知れずストーカー被害に悩んでいる女性も少なくないといいます。作家の内澤旬子さんも、そのひとり。
2014年に小豆島へ移住した内澤さんは、2年後、インターネットサイトを通じて知り合った男性Aと交際をはじめます。しかし8ヵ月後、別れ話をきっかけに、鳴りやむ間もないほどの着信、脅しのメッセージ、インターネット掲示板での中傷などのストーカー行為を受けることに。
Aの逮捕にこぎつけるまでの様子や心情は、ストーカー体験リアルドキュメントとして2018年から『週刊文春』(文藝春秋)の連載でつづられ、今年の5月24日には『ストーカーとの七〇〇日戦争』(同)も上梓されました。
そこで、ストーカー被害の真の恐怖や、被害に遭わないためにできること、また、被害者となってしまった際の手立てなどを内澤さんに伺いました。2回に分けてお届けします。
――ストーカー被害に遭われた際の恐怖は、どのようなものだったのでしょうか?
内澤旬子さん(以下、内澤)「私は殴られたり刺されたりしたわけではありませんが、まず、付き合っていた相手が豹変する怖さを感じました。
フェイスブックのメッセンジャーで別れ話をしていたとき、Aは、はじめは『なんとかやり直したい』という姿勢だったのに、あまりのしつこさに、私が『警察に相談する』と言ったとたん、開き直ったような態度になって怒りのメッセージに変わったんです。こちらがメッセージを送った2,3秒後には返事がくるし、返事をしなければ『シカトか、この野郎』って相手の怒りが増していって、どんどん追い込まれていきました」
――考える間もないほどのスピードですね。
内澤「心臓の鼓動と同じくらいのペースで、ずっとスマホが振動しているんです。メッセージという短文でのやり取りの中、そのペースで罵声を浴びせられ続けました。でも、振動するスマホを横に置いて仕事の打合せなどもしていたので、『直接怒鳴られたわけでも、殴られたわけでもないし、仕事もできているから大丈夫』って、自分では精神的に追い詰められていることになかなか気づけなかったんですよ。
実際は思考力が低下して冷静な判断もできておらず、対処も遅れ、あとになって『ああすればよかった』ということがいっぱい出てきました。戦闘能力が半減している自覚も持てないほど、気づかないところで手足をもがれていた感じも怖いなと思いましたね」
――「島(内澤さんが住む小豆島)に行ってめちゃくちゃにしてやる」など過激な罵倒が続き、警察に相談したところ、Aは内澤さんに偽名を名乗っていたこと、そして前科があることが判明。
実際に小豆島に押しかけてきたAは脅迫罪で逮捕され、示談成立後不起訴処分に。
その数カ月後、彼は平然と示談を破り内澤さんに連絡してきて、再度「島に行く」など発言。加えて、内澤さんの知人に電話をかけ、インターネット掲示板に内澤さんへの酷い中傷を書き込むなど、嫌がらせは加速していく。
内澤さんは名誉毀損で刑事告訴し、Aは再逮捕された・・・
――交際中に、ストーカー化しそうな気配などはあったのでしょうか?
内澤「今思えば、嫉妬深いとか、女性より優位に立ちたがるとか、プライドが高いとか、素質と言えそうな一面はありました。でも、Aは以前、別れた女性につきまとわれた経験があったらしく、それがすごくイヤで、ストーカーみたいなのが大嫌いだって言っていたので、まさか彼自身がストーカーになるとは思いもしませんでしたね。自分がされてイヤなことは他人にはしない。他者共感性と呼ぶそうですが、それが決定的に欠けていたということです」
まさか彼がストーカーになるなんて

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