
(画像:『私の家政夫ナギサさん』公式サイトより)
では、ドラマ史の文脈や、今後の作品への影響はどうでしょうか?
『わたナギ』には、家事をめぐるジェンダー的視点や親の期待に応えたいと思うあまり、無理をしてしまう娘と、ともすれば「毒親」と言われかねない母親の「呪い」、仕事での無理によって壊れそうになったナギサさんの後輩による「働き方改革」的要素など、様々な要素が盛り込まれています。
けれども、どれもあまり深掘りはせず、世知辛(せちがら)い現実や息苦しい心情と真正面から対峙(たいじ)するのではなく、比較的ソフトでライトな着地点を迎えるのが、この作品の大きな特徴だと思います。ずっと軽やかな口当たりが続いていました。
大きなクライマックスがないだけに、「あれ? もう終わり?」といった肩透かし感もなくはないですが、辛く重い話を複数話にまたがってされると、離れていく視聴者は多く、ましてコロナ禍で疲れている女性たちは「見たくない」と感じてしまうのでしょう。
「悪人が一人もいない」というのはこのドラマにおいてよく指摘されているポイントですが、『わたナギ』の好調を受けて、今後のドラマはますます大きな出来事や悲惨な現実はあまり描かれず、善人だらけで、冒頭から最後まで安定して心地良い適温が終始保たれる作品が増えていきそうな気がします。
<文/田幸和歌子>
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