ところがその夢は、日本では叶えられそうにありませんでした。内田さんは、北海道大学在学中に医学部の同級生男性から、
「医者は力仕事だから女性には無理だ」
「女性が働くことによって日本の少子化問題が起きているのだから、女性は働くべきじゃない」と言われたそうです。
先輩の女性からも、「本気でキャリアが欲しいなら、子どもは諦めた方がいい」と言われました。
それで内田さんは、2007年に北大を卒業後、アメリカに渡ったのでした。

仕事に加え、スキー、フィギュアスケートなど趣味も多様な内田さん
日本のジェンダーギャップ指数は、総合順位が153か国中120位(2021年)と惨憺たるもの。では同順位が30位のアメリカで働く、内田さんの環境はどうなのでしょうか?
「アメリカでは40年くらい前から医学部の男女比は半々だったようで、私の上司も半数が女性です。男性の育児は、やって当然と思われていると思います。保育園のお迎えや保護者会なども半数は男性です。
男性が子どもの行事のために仕事を休んだり、子どもが風邪だからと早く帰ることも頻繁に目にします。いわゆる家事の『ワンオペ』は、少なくとも私の周りの家庭では聞いたことがありません」
もちろん、アメリカでも地域や社会階層によって違いはあるでしょうが…。
また、日本で問題になっている「保育園の待機児童」問題は、アメリカではないそうです。
「そのかわり、保育園は私立で、日本の10倍ぐらいお金がかかります。でも『自分が社会に貢献する、自分が成長することは、自分のメンタルヘルス、そして家族の将来に対する投資だから意味がある』という考え方がシェアされていると思います」
30位でこんなにも日本と状況が違うのですから、1位のアイスランドや2位のフィンランドは、どんな社会なのでしょうか。想像もつきません。
『ドラえもん』の話に戻ると、内田さんもこの作品を否定しているわけではないと言います。でも、『ドラえもん』の連載が始まったのが1970年。当時、女性の社会進出なんてないに等しく、将来の夢は「お嫁さん」でした。しかし今は違います。『ドラえもん』は長く愛される作品だけに、古い感覚が取り残されてしまっているのです。
「いろんな理想像があっていいと思います。けれども、画一的な理想像を社会が提示することで、自分がなりたい姿が見えない、自分に似た人がお人形やテレビの中にいない…という状況は、実はすごく、考え方や精神衛生に影響することだと思います。
ジェンダー、セクシャルオリエンテーション(性的指向)、仕事形態、家庭の形、障害などに関係なく、自分の理想に向かえる環境を社会としては目指したいですね」