――登場人物と同じく推しがいる人たちを中心に話題になった『推しが辞めた』。読者の方からは、どのような声が届きましたか?
オガワサラさん(以下オガワサラ):やはり共感してくださる声が多かったですね。私も推し活でこういう苦しい思いをしましたとか。特に雅のように、推しのために内緒で夜のお仕事をされている方からは大きな反響をいただきました。
――雅たちのようにわかりあえるオタク友達がいても、自分のパーソナルな部分は明かしていない人も多いですもんね。
オガワサラ:それに推し活って辞めどきがわからなかったり、辞めたとしても物理的なものが残ったりするわけではないじゃないですか。ゴールのない旅のようなもので「ここまで頑張ったよ!」とトロフィーをもらえるわけでもない。そういう苦しみに共感していただいた方もいました。
――読者が共感するようなリアルさを併せ持った登場人物は、どのようにして生まれたのでしょうか?
オガワサラ:各キャラクターの作り方は、推し方のスタンスから膨らませていきました。登場人物の中には良くない推し活をしている子もいるのですが、主人公の雅は、私が思う“良いオタク”です。
それから、私自身がオタク友だちとごはんに行ったり、遊んだりする中で実際に交わした会話を部分的に取り入れているので、そういったところからもリアルさを感じてもらえるのではないかなと思います。
――たしかに、キャラごとに推し方のスタンスが違いますもんね。先生自身が近しいと感じるキャラクターはどの子ですか?
オガワサラ:長く推し活をする中で、スタンスが変化しているので、それぞれに共感する部分はありますね。例えば、一時期「推しに認知されたい」という想いが強くなってしまった時期があったのですが、その頃は、かなみのようだったなと。SNSで、他のファンから見たら、嫌味に捉えられる発言をしてしまったこともありましたから。そんな自分が嫌になって、雅を目指すようになりました。
――なるほど。雅を“良いオタク”とおっしゃったのは、先生が目指すオタク像でもあるからだったのですね。
オガワサラ:はい。それに推し活と私生活の狭間に葛藤を抱えた、さなの悩みも身近ではありました。さなは私と同年代で、アラサー女性が抱える結婚や出産についてのライフステージへの不安を抱えています。「結婚するのが全てじゃない」とは言われる一方、実際にアラサーになって、周りからの風当たりの強さを感じることもなくなかったので。推し活のためにライブに行けばもちろん楽しいんですけど、帰り道に訪れる現実とのギャップがキツいんですよ。
――すごくわかります。夢心地な気分と現実の差を辛く感じることもありますもんね。そのほかリアルさを表現するべくこだわった点はありますか?
オガワサラ:ビジュアルに関しても、実際の人物を参考にしています。“アイドルオタク”と言っても、界隈によって流行りの服装やトレンドが微妙に違うので、ライブで見かけるオタクたちの最新の服装をリサーチするようにしました。
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推し活をする上での金銭的な問題やファン同士のSNSでの牽制など、アイドルファンならどこかで見たことがあるような景色が描かれた本作。
登場人物のリアリティに共感し、心を揺さぶられ、“自分の物語”として読み進めてしまう人も多いのではないかと思います。推し活をする人の人生をそっと肯定するような1冊、ぜひ手に取ってみてはいかがでしょうか。
【マンガ第1話前半を最初から読む】⇒
<漫画>風俗、パパ活、転売、親金……キラキラとした「推し活」の裏側
【オガワサラ】
DAYS NEOへの投稿をきっかけに、2020年ヤングマガジン38号に読み切り『pm7:20』が掲載。その後、第83回ちばてつや賞ヤング部門にて、『わたしのかみさま』で優秀新人賞を受賞。2021年6月からコミックDAYSにて『推しが辞めた』を連載開始。
Twitter:
@saraogawa_
Instagram:
@saraogawa_
<漫画/オガワサラ 取材・文/すなくじら>
すなくじら
映画やアニメ、漫画、アイドルなどのエンタメジャンルを得意とするライター・インタビュアー。休日はもっぱら動画配信のサブスク漬けで、Netflixオリジナルが三度の飯より好き。