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「ママ」になったトランスジェンダー女性が幼い娘に伝えたいこと「家族のあり方が人とは違うと感じ始めるときがくる」

「私自身を包み隠さずに書くこと」を意識した

――その頃から「娘への手紙」として本を出すことを考えていましたか?  出版社さんとの最初の打ち合わせの時点で、タイトルや章立てはできていました。打ち合わせを重ねる中で、私の人生を振り返りながら娘に伝えたいことを書くなら、文字通り手紙形式にするのがいいのではないかという案が出て、それに決めました。 ――セクシュアリティやパートナーとの出会いなど、自身について綴るうえで意識した点はありますか?  娘に対する手紙なので、私自身のことを包み隠さず率直に書くことを意識しました。セクシュアリティやジェンダーアイデンティティはグラデーションがあるので、あくまで私個人の人生を書くことに意味があると思っています。そういう意味では、LGBTQの文脈だけを強く意識したつもりはありません。 ――本には、中東での生活や自身のセクシュアリティに悩んでいた頃の話など、さまざまな経験が綴られています。谷生さんの人生を振り返って、今でも覚えている出来事はありますか?  やはり第1章で書いた幼少期の出来事は今でも思い出します。小学生の頃にあった持ち物チェックの時、私のハンカチを見て隣の席の女の子が放った一言、担任の先生からいじめられたこと、高校の友達から「へんこ」と言われたことなど、本を書いていくうちに当時のエピソードがくっきりと浮かび上がってきました。

幼い自分に暴力を振るった父

谷生俊美さん――家族の話も書かれていました。  父親から解放されたいという気持ちは強かったです。幼い頃に暴力を受けたこともあり、父親には「負けたくない」と思っていました。結局、私が『news zero』に出ようが、本を出そうが、今の生き方を選んでいようが、受け入れられることはありません。  ですが、私がまだ許していない父親のつるつるの頭を娘がふざけて叩いたとき、父親の嬉しそうに娘を可愛がる姿を見て、幼き日の傷が一つずつ癒えていった気がします。許していないけど、「もういいかな……」と思えたんですよね。 ――さまざまなつらい経験がありながらも、女性として生きる決意をし、『news zero』にも出演、現在は日テレの映画プロデューサーとして活躍されています。自身の道を切り開いていった勇気の源はどこにあったのでしょうか?  自分のことを笑った人や父親より成功したい、「ビッグになりたい」と思ったのです。『news zero』に出演したときは「こんな姿でニュース番組に出るべきではない」「チャンネル変えた」といった批判的な意見もありました。  ただ、全体の意見の7割はポジティブな内容で「見識が高い人だ」「立ち振る舞いが素敵」など、身に余るお言葉をいただきました。周りから肯定されることで自信につながりましたし、本当に嬉しかったです。
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変化をもたらす人はみんな「へんこ」
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